アパートやマンションなどの賃貸物件を運営する時に、できるだけ運営を安定させるためには同じ人に長く住んでもらうことが必要です。もちろんリスクとして空室期間は絶対に発生するということは、資金計画や返済計画にも織り込んでおかなければいけません。
しかし、それでもできるだけ空室期間を短くすることで利回りも高いものになります。では、どうしたら長く住んでもらえるのか、いわゆるテナントリテンションの方法についてここではお伝えします。
空室発生によるリスク
まず空室が発生するとどのようなリスクがあるかを知っておきましょう。空室が発生してしまうと収入が無くなるだけではなく、多額の出費がかかってしまいます。
まず単純に空室が発生するとその期間の家賃収入が0円になります。年度の切り替わりに2月に退去が発生し、4月の頭から入居者が入ったとしても、1か月間は全く家賃が得られません。さらにフリーレント期間などを設ければ、その分の家賃収入も減ってしまいます。
そして出費としては以下のようなものがあります
仲介手数料
空き室が出れば不動産屋に入居者を募集してもらうことになります。多くの不動産屋において、入居者募集が成功した場合には成功報酬として仲介手数料家賃1か月分を支払います。
広告費
なかなか客付けに時間がかかり、空室期間をできるだけ少なくしたいという時は、不動産屋に対して広告費を支払うことで、優先的に物件を紹介してもらうことができます。
広告費は家賃の1ヶ月2ヶ月などを成功報酬として支払うことになります。これも大きな出費になりますが、退出のタイミングが悪いなど、空室期間が長くなりそうな時には広告費を支払った方が良いケースも多々あります。
部屋の清掃代
退出があれば、敷金から費用を捻出してハウスクリーニングを行うのが一般的です。もちろん敷金から料金を出すので、完全に大家の出費になるというわけではありません。しかし敷金を十分に受け取っていなかったり、清掃が大掛かりなものになったりしてしまうと、オーナーの持ち出しで清掃費を支払うこともあります。
こういった理由により、一旦空室が出てしまうと2ヶ月分ほどの収入が減ることは間違いありません。そうなると年間の利回りは8割まで低下してしまうのです。そのため、できるだけ空室を発生させないように対策をとっておきましょう。
入居者に長く住んでもらうためのコツ
では具体的に契約の更新を行い、入居者に長く住んでもらうためにはどんな対策をとれば良いでしょうか。
入居者に契約特典をつける
多くの入居者が退去を考えるのは、入居してから2年後の契約が終わり、再契約を行うときです。そこでそのタイミングで契約特典をつけることを考えてみましょう。一つの施策として有効なのは、2年間住んでもらった時点で一旦ハウスクリーニングを行うというものです。
ハウスクリーニングは、普通は退去時にしか行わないので、今住んでいる入居者にとっては多少汚れていてもずっと同じ部屋に住み続けることになります。そうすると「この部屋汚いから引っ越そうかな」という気持ちにもなってしまうものなのです。
しかし、2年住んだ時点でハウスクリーニングを行えば入居者もせっかく部屋が綺麗になったのだからまだ住んでもいいだろうと思ってもらうことができます。
生活をしている間に見えない瑕疵が発生したり、しつこい汚れをこびりついたまま放置してしまったりして、4年、6年住まれて退出された時に部屋に重大な損害が発生していることもあります。しかしハウスクリーニングを2年毎に行えば、一旦部屋の中を確認し綺麗にすることができるのでそういった致命傷になりかねない汚れなどを防ぐことができるのです。
サービスと部屋の安全性を守るという、二重の意味でハウスクリーニングを行うことにはメリットがあるのです。
金券などのサービスを提供する
2年間住んでくれたお礼として、amazon ギフト券やデパートの商品券などの金券を提供するといった対策をとっている人もいます。やはり、直接的にもらって一番役に立つ嬉しいのは金券だという人も多いのです。
先ほど一旦退去が起きれば家賃2ヶ月分ほどの損失が発生する可能性が高いとお伝えしましたが、そうなると10万円を上回る減収になります。一方で1万円の金券を用意するだけでも、退出の引き止めには効果があります。
10万円と1万円を比較してはどちらの方が出費が少ないかというのは一目瞭然でしょう。金券やクオカードなどを渡すことで、契約の時にお得感を与えることができればオーナーが入居者のことを大事にしている、という印象を伝えられます。
設備の改修を行う
また非常に有効な退出防止の手段となっているのが、部屋の設備の改修や新設です。例えば契約の更新のときに、モニター付きインターホンを設置する、無料インターネットが使えるようにする、宅配ボックスを設置するなど新設を行います。
こういった、これまでの部屋よりも使い勝手が良く機能性に優れた設備を設けるといったサービスを行えば、より住み良さを実感して契約を更新してくれる可能性も高まるのです。
部屋の魅力を高めるということは、入居者の有無にかかわらず、オーナーとしては常に取り組んでいかなければいけない課題です。その設備の改修を入居者へのサービスという形でアピールすることで、入居者にとっても魅力のある物件だと思ってもらうことができます。
しかし、上記の内容を伝えるタイミングには注意が必要です。契約の告知と共に設備の更新を伝えるのは、契約の更新をしようかどうか迷っているという人には効果があります。しかしあらかじめ退出する気であった人にとってはあまり効果がありません。
契約の半年ほど前に、設備の新設を告知して実際に設置を行えば、契約の更新を考える前に「こんな住みよい家になるのならもうちょっとここに住んでもいいか」と思われ、契約の更新を考えずに済ませてもらえることができるかもしれません。
さらに契約をしてくれたらこういった設備をつけますという特典も、契約の更新をするかどうか迷っている人には有効な対応になります。
なかなか今いる入居者から今後住み替えるのか、という気持ちを聞くのは難しいですが、もし日常的に雑談をする機会があるのでしたら、そういった要望などを自然な会話の中で聞いておきましょう。普段からの情報収集は意外と大切なものです。雑談の中で要望が出た設備を設置してあげれば、長く入居してもらえることもあるかもしれません。
家賃の見直しも検討課題になる
2年間の更新のタイミングで、再度の契約手数料の徴収を行うのが不動産業界の一般的な慣習でしたが、最近ではそういった契約手数料をなくすという動きも出てきています。
契約手数料として1か月分の料金をも入居者から受け取ることになりますが、それが嫌で契約更新を行わないという入居者もいるのです。
1か月分の収入は減ってしまいますが、空室が発生し2ヶ月以上の収入が減ることと比較をすれば、契約手数料を取らないという選択肢もあるでしょう。
また賃貸物件というのはどうしても経年で家賃が低下するというものです。契約更新の際には家賃交渉を持ちかけられることもあるでしょう。そういったことを見越して、あらかじめ1000円程度であれば家賃の値下げを自分から持ちかけてみても良いかもしれません。
1000円値下げをしたとしても収入として減るのは2年間で24000円だけです。総額で見ても1か月分の家賃にもなりません。微々たる収入減でしかないのですから、痛手は大きくないはずです。
まとめ
空室が発生するということはその間の家賃収入がなくなるだけではなく、仲介手数料や広告費その他の出費になります。その結果大きくアパートやマンションの運営利回りを低下させることにつながるのです。
そのような大きなダメージを防ぐには入居者が退去を通達してきてから対応を考えるのではなく、あらかじめ先手を打って、入居者に退去を踏みとどまってもらえるような対策をしなければいけません。
多少のサービスのための出費が増えたとしても、結果的に対策のための出費と、空室発生でどちらのほうが収入が減ってしまうのか、具体的な数字を比較してみましょう。そして、自分にとって利益が多い選択肢を選ぶようにすることを、大家として考えていくべきです。