土地を介護や福祉施設に貸す際のメリットとデメリット

土地を介護や福祉施設に貸す際のメリットとデメリット

日本の総人口において、65歳以上の高齢者が4人に1人の割合を超えている今、高齢者向け施設の役割が大きくなっています。

高齢者は増える一方で、施設への需要は今後も衰えないことが予想されるため、土地活用のひとつとしても注目されています。賃料収入を得ながら、同時に社会問題を解決する力になれば一石二鳥です。

今回は土地活用のひとつとして、高齢者向けの介護・福祉施設に土地を貸し出す際の、メリットやデメリットついて考えていきます。

高齢者向け施設の種類

提供サービスの違いによって、民間が運営できる高齢者向け施設はいくつかに分類されています。

サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)

サービス付き高齢者向け住宅は、「サ高住」という略称でも呼ばれます。都道府県、または政令市、中核市に登録が必要で、5年ごとに更新しなければなりません。

2011年に施行された改正高齢者住まい法によって規定され、ここ数年で急速に増加しています。2016年度末には21万戸を超えました。

高齢者向け「住宅」というだけあって、普通のマンションと同じように、キッチン、バス・トイレ、洗面台が完備され、入居者は個室で生活をします。介助されなくても生活のできる健康な高齢者が居住対象です。

普通の賃貸住宅にはない「サービス」は何かというと、「毎日一回以上の安否の確認」と「生活相談援助」で、施設側が必ず提供しなければいけないことになっています。施設に常駐する専属スタッフが部屋を定期的に訪れてくれたり、日常生活の困りごとの手助けをしてくれます。バスの手配や家族への伝言など、あくまでも生活上の相談援助です。

介護サービスもあるかと思われがちですが、施設のスタッフは排泄や食事の介助といった介護サービスは提供しません。介護サービスが必要な場合には、提携している訪問介護の事業所や併設の事業所からスタッフが派遣されることになります。

常駐スタッフは9時から17時までは一人以上の配置が義務です。夜間は通報装置等で対応し、居住者が不安なく暮らせるように整備します。スタッフが24時間常駐しているところもあります。

施設に関しては、バリアフリーで、部屋の広さは原則25平方メートルという規定があります。共用部分に関する一定の条件を満たせば、各個室は18平方メートルでも認められます。プライバシーへの配慮はありますが、高齢者自身が自らの力で暮らすための施設で、あくまでも「賃貸住宅」の位置づけです。

段差の解消以外にもバリアフリーの基準があります。廊下の幅や浴室の広さ、手すりの設置、3階建て以上にはエレベーターをつけることなどです。比較的健康な高齢者が対象と言っても、足腰の悪さへの配慮や車いすでの利用が想定されています。

今は元気であっても将来的な健康不安がつきまとうのが高齢者です。デイサービスの事業所を併設しているところも多く、高齢者特有の心配をいかにして払拭してあげられるかが重要です。

デイサービスやショートステイ

在宅で介護されている高齢者を施設まで送迎して、入浴や食事などのサービスを提供します。日帰りでの提供がデイサービスで、短期間の宿泊を伴うものがショートステイです。

「要介護」や「要支援」の認定を受けた高齢者向けの介護サービスです。元気な高齢者は利用できません。

普段とは異なるコミュニケーションができるため、家のなかに閉じこもりがちな高齢者のストレス解消にもなると言われています。一時的に介護のお任せができるため、サービスを受ける高齢者本人だけでなく、毎日つきっきりで介護をしている家族の負担軽減にもつながります。

サービス付き高齢者向け住宅に併設して、介護サービスの充実を図る事業者も多いです。

グループホーム(認知症対応型生活介護)

認知症を抱える高齢者が専門スタッフの援助を受けられる施設です。居住者は9人ごとのユニットに分かれていて、最大でも2ユニット、定員18名と決められています。

自分の家に近い環境で生活できるのもグループホームの特徴です。生活のすべてを介助してくれるわけではなく、居住者ひとりひとりの身体の状態に合わせて、清掃や料理などの役割を担ってもらいます。

認知症の高齢者をどのようにサポートしていくのかは、解決すべき社会的課題です。近年、少しずつグループホームの数が増えていることからも、期待される役割の大きさが実感できると思います。

高齢者向け施設の土地活用のメリット

オーナー自らが高齢者向け施設を経営するというよりは、介護ビジネスを展開している事業者に土地や建物を一括借り上げ方式で貸すという方法が一般的です。

オーナーが建物を建て、介護事業者が期間を定めて借り上げます。オーナーは事業者から固定の賃料を徴収することで、建物の建築費用を返済していきます。

特徴的なのは、国全体で高齢者向け施設の建設を後押ししようとしていることです。それだけ、社会からも求められている事業だと言えます。マンション経営に似ていますが、社会問題の解決につながる点が大きな特徴です。

社会貢献度が高い

高齢社会の進展に伴って、高齢者向け施設は不可欠なものとなっています。施設への入居待ちが発生するなど、供給が足りていない状態です。

高齢者向け施設に土地を提供することは、増え続ける高齢者を支えることになります。社会問題の解決にもなる点は他の不動産投資にはないメリットでしょう。

今後も安定した需要が見込める

高齢者の人口割合は今後もどんどん上がっていきます。今でもすでに施設が足りない状態ですから、将来的にも高齢者向け施設の需要が高まっていくことが予想されています。

その反面、人口減少のあおりを受けて、マンションやアパートの空き家率が問題となっていて、高齢者向け施設の建設に鞍替えする事例もあるほどです。供給が過剰気味になっているアパートやマンションに比べると、いま求められている土地活用の1つと言えます。

駅から遠くても大丈夫

マンションであれば交通アクセスの良し悪しは死活問題になりますが、入居者は高齢者なので、通勤などで頻繁に駅を利用することがありません。駅から徒歩圏ではないとしても、集客面ではそれほど不利にはならないでしょう。

もちろん、すぐ近くに駅があれば、プラスのセールスポイントになります。生活の利便性が高いエリアであるに越したことはありませんが、交通アクセスの優先度はあまり高くありません。

補助金を利用できる

サービス付き高齢者向け住宅の建設には、国が実施する「スマートウェルネス住宅等推進事業」によって出される補助金が利用できます。

ただし、平成29年度以降、家賃の月額が30万円以上の住戸や、岩盤浴やサウナなどの付加価値をつける設備は補助の対象外となりました。さらに、住戸部分の床面積が狭い住宅への補助限度額も切り下げられているので注意が必要です。

補助金の内容

補助金の具体的な内容は、以下の通りです。

新築建築費の1/10

上限は以下の通り、住戸部分の床面積によって変わります。

  • 住戸部分の床面積25平方メートル未満=1戸あたり110万円まで
  • 住戸部分の床面積25平方メートル以上=1戸あたり120万円まで
  • 住戸部分の床面積30平方メートル以上で一定の設備がある=1戸あたり135万円まで
デイサービスなどの高齢者生活者支援施設を併設する建築費用の1/10

上限は、1施設あたり1,200万円

改修工事費用の1/3

上限は、1戸あたり150万円まで

エレベーターの新規設置するための改修工事費2/3以内

上限は、1基あたり1,000万円


改修費補助では、建築基準法、消防法、バリアフリー法等に適合させる工事や共用廊下を設置する工事が対象です。

注意したいのは、あくまでも建築費が対象となるので、宅地の工事費用や家具などの設備費用は含まれないことです。資金計画をたてる際には、建築費に加えて、設備を整える費用の捻出まで頭に入れておく必要があります。

上限額に上乗せして補助している自治体もあります。自治体が公表している補助金の概要を必ず確認するようにしてください。

補助金をもらうための要件

どんな施設でも補助金がもらえるわけではありません。補助金をもらうための要件を抜粋すると、次のようなものがあります。

  • 10年以上に渡ってサービス付き高齢者向け住宅として登録すること
  • サービス付き高齢者向け住宅としての登録が完了していること
  • 家賃が近隣の同等の住宅と比べて適正であること
  • 家賃の徴収が前払いに限定されていないこと 
  • 地元市区町村のまちづくりに支障を及ぼさないと認められるものであること など

要件は随時変更されます。永続的にこの内容とは限らないので注意しましょう。

補助金を申請する流れ

補助金の申請者は建築主です。国土交通省が指定した事務局に対して、所定の申請書類を提出し、交付の申請をします。申請書類には、敷地や施設の概要、主体となる事業者、事業費用、資金計画、要件の適合性についてなど、運営に関することを細かく記載していきます。

交付申請書に添付する書類として、サービス付き高齢者向け住宅の登録通知書、金融機関の融資内諾を証する書面の写し、需要の予測書、市町村の意見書などが必要です。

市町村の意見を聞くことは、平成28年4月から新たに必要とされました。施設を建設しようとする市区町村に「まちづくりに支障を及ぼさないと認められるものかどうか」を聞きます。

審査を通過し補助金交付が決まると、交付決定通知書が出され、施設の建設工事に着手できます。この順番がとても大切で、工事を着工してから補助金の交付を受けようと思っても受けられませんので注意してください。

また、交付が決定した年度内に着工しないと交付そのものが無効となってしまいます。スケジュールにも細心の注意を払いましょう。

工事が終わったら、申請書類を出した事務局に完了実績報告書という書類を提出します。完了実績報告書の審査後、晴れて補助金が振り込まれるという流れです。

まとめると、以下の点が補助金のポイントとなります。

  • 補助金申請をする前にサービス付き高齢者向け住宅の登録を済ませること
  • 補助金申請をする前に金融機関からの融資内諾を受けておくこと
  • 工事着手の前でなければ申請できないこと

補助金内容は随時変更されるので継続的なチェックを!

住戸部分が25平方メートル未満の補助金が110万円とされたのは、平成29年度からです。

それまでは住戸部分のサイズに関わらず同じ補助金が出ていたため、住戸部分を小さくして共用設備を必要以上に豪華にするケースがあったようです。そういった事業者が出てこないようにするために、狭い部屋に対する補助金の制限が設けられました。

補助金の内容は、状況の変化や政策意図に合わせてどんどん変えられていきます。高齢者向け施設への参入を検討している土地オーナーは、福祉政策の動向にも関心を持ち、継続的にチェックしていくことが求められます。参入時期に適用される補助金の募集要項や募集期間をきちんと把握するようにしましょう。

住宅金融支援機構の融資条件が緩和される

住宅金融支援機構では、サービス付き高齢者向け住宅を対象とした融資が実施されています。具体的には以下のような内容です。

  • 35年または15年の固定金利
  • 最大で建設事業費の全額が融資される
  • 一年間元金を据え置き、利息だけの支払いにすることも可能
  • 高齢者生活支援施設(デイサービス等)を併設すれば、連帯保証人が不要

一般的な融資よりも利用しやすくなっていることが分かります。資金面でのバックアップを最大限に活かせれば経済的なハードルが下がりますし、その後の経営にもよい影響をもたらします。

建設計画を立てる前に融資や補助金について理解し、内容を踏まえたうえでビジネスプランを練るのが肝心です。

高齢者向け施設の土地活用のデメリット

社会貢献度が高いと言っても、あくまでもビジネスであることには変わりありません。デメリットを把握し、不利益を被らないようにしておきましょう。

補助金を受けるには、10年以上登録を続けることが義務

補助金をもらうためには10年以上の登録が義務付けられています。10年間は施設運営を止めたり、転用したりはできません。

もしも、10年以内にサービス付き高齢者向け住宅の運営を止めるとなれば、補助金の返還を求められることがあります。少なくとも10年間は運営する前提で計画しなければなりません。

建物を建てるだけでなく、集客できる魅力が必要

補助金が出されることからも分かるように、国としても高齢者向け施設を増やしていきたい考えです。これからも高齢者向け施設は増加していくはずです。ビジネスとして考えれれば、競争相手が増えていくこととイコールです。

他の施設に勝る魅力がなければ、思ったように入居者が集まらないことになりかねません。立派な施設を建てるだけでは足りず、入居者にサービスを提供することをしっかりと自覚する必要があります。

地域の福祉を支える重要な拠点ともなるため、責任は重大です。顧客となる高齢者が求めるものを提供できるのか、マーケティングの観点と合わせて、福祉の観点も忘れないようにしましょう。

オーナー自らが運営するには副業では無理

高齢者向け施設を副業として考えているなら、運営は難しいと言わざるを得ません。専属スタッフの募集・育成、入居者の集客・サービス提供、施設の維持、介護報酬の熟知など、高齢者向け施設の運営には多くのノウハウや手間が必要です。

最近は福祉業界で働く人材確保が難しいと言われていて、海外からのスタッフの受け入れも行われるなど、国内でのスタッフ集めから困難な状況が続きます。どんなビジネスでも同じですが、高齢者向け施設の運営はやりがいが大きいぶん、困難も多いです。

自分で運営しようとすれば、本業として進めていく覚悟がいります。高齢者向け施設の運営を行っている事業者に賃貸する方法を採用すれば、高齢者向け施設を建設するハードルは下がります。土地活用として高齢者向け施設の建設を検討するなら、事業者への賃貸が現実的だと思います。

オーナーとして知っておきたいこと

高齢者向け施設を建設する土地を事業者に貸す場合に、オーナーとして知っておきたいことをまとめました。

賃貸経営の概要

福祉の仕事に特別の思い入れがないのであれば、オーナー自らが運営するよりも、ノウハウを持った専門事業者に運営を任せるべきです。実際に、一括借り上げ方式での運営が多くなっているようです。

一括借り上げ方式とは、オーナーが建てた高齢者向け住宅を事業者が借り受けるやり方です。建物の建設資金はオーナーの負担ですが、毎月の賃料が入ります。基本的には、マンション経営と同じ考え方です。

土地活用として検討する際は、高齢者向け施設を運営する専門企業に問い合わせてみるとよいでしょう。建物の建設費用負担から賃貸契約に至るまで、じっくりとコミュニケーションを取りながら進めていってください。

ただし、さきほども述べたように、福祉サービスの提供者としての自覚が非常に重要です。土地を貸すだけと言っても、高齢者が顧客となるサービス業という意識を持ちましょう。

賃貸経営の注意点

需要が高いからと言っても、ただ施設をつくればいいというわけではありません。他の不動産投資と同じように、顧客から求められる施設にしなければ空室だらけに陥ります。

いくら社会貢献度が高い事業であっても、人が集まらなければ意味がありません。経営の視点を忘れないためにも、以下の点に注意してください。

高齢者の「安心」を提供する

高齢者向け施設の特徴は、やはりなんと言っても顧客が高齢者に限定される点です。高齢者が求めるものがそろう施設が人気となるのは当然のことです。

そう考えると、介護・医療サービスの充実が差別化ポイントになります。サービス付き高齢者向け住宅はあくまでも「賃貸住宅」で、介護・医療施設ではありません。したがって、地域の介護・医療施設との連携が欠かせません。

たとえ今は元気だとしても、将来的な健康不安を抱えているのが高齢者です。その不安を解消する安心材料をいかに提供できるかが、高齢者向け施設の最重要課題となります。周辺に協力体制の築ける医療施設があるならば、高齢者向け施設の建設に向いているエリアだと言えます。

資金や土地に余裕があるなら、介護施設の併設も検討しましょう。併設が対象となる補助金も活用できます。まずは事業者と相談をして、一番いいプランを探ってみてください。

初期費用を抑えるには

サービス付き高齢者住宅にするには、床面積を25平方メートル以上にしなければなりません。マンションのように自由に設計できるわけではないので、建設費用もかさむことになります。

一般的な賃貸住宅には必要のないバリアフリー対応も必須なことから、規模によっては3億円程度の費用も覚悟する必要があります。当然ですが、費用は個別に変わってきますので一概にいくらかかるとは断言できません。少なくとも、一般的なマンションを建てるよりはコスト負担が大きいことを意識しておいてください。

そう考えると、やはり補助金制度を活用しない手はありません。どのくらいの補助金をもらえそうかを踏まえ、必要なコストを見積もっていきましょう。

事業者の見極めが必要

高齢者向け施設の運営を任せる事業者を選定する際には、オーナー自らの厳しい目でチェックしてください。企業の大きさや知名度の高さで安易に決めてしまうのは、避けなければなりません。

すこし前の話ですが、東証一部上場企業のグループ会社による介護報酬請求事件が社会を揺るがせました。会社の規模に安心してはいけないことを教えてくれる事例です。残念ながら今でも、高齢者向け施設の不適切な運営が指摘されることは、たびたび見受けられます。

入居者に対する背信行為であることはもちろんですが、あなたが任せた事業者に問題があれば、土地オーナーとしての収益計画にも狂いが生じます。問題なく運営してくれる事業者を選ぶことが、結果的に最大の利益をもたらしてくれることになります。

高齢者向け施設は他の転用が難しくなる特殊な建物ですから、それなりのリスクがあります。土地を貸すだけといえども、最低限の専門知識を持って事業者を選ぶ姿勢がないとダメです。

事業者のコンプライアンス(法令順守)に問題はないか、スタッフの定着率は悪くないか、運営施設の状況はどうなっているかの確認など、入念な準備を怠らないようにしてください。

とは言え、万一のことへの対策も必要です。事業者との契約には、事業者側に問題が発生した際のペナルティに関する項目をつけておきましょう。

まとめ

高齢者向け施設の建設は、補助金をはじめとする行政のバックアップもあるため、今後の土地活用を考えるうえで外すことのできない選択肢であることは間違いありません。ただ儲けるだけではなく、社会の役に立つ投資を考えている人におすすめです。

もちろん、利益を上げないと社会貢献どころではありませんから、しっかりと利益を上げられるプランかどうか、リスクを含めて検討しましょう。

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