不動産投資で競売物件を購入するリスクと手続き、流れ

不動産投資で競売物件を購入するリスクと手続き、流れ

安くて利回りの良い物件を買いたい……不動産投資をしている人なら、誰もが考えることです。ですが、現実にはそんなお値打ち物件を簡単に見つけることはできません。

そこで注目されるのが競売物件。ところが、この競売物件、何の知識も持たない素人が手を出すと、ほぼ確実に失敗します。

よって、今回は、

  • 競売物件を購入するには
  • 競売物件を購入するリスク
  • 競売物件の購入について

について解説します。

競売物件を購入するには

競売物件を購入するには裁判所が実施する競売入札に参加しなければなりません。どんな物件が「競売物件」として売りに出されているのかを調べるには、

  • 最寄りの裁判所に行って、競売物件を閲覧する
  • ネット上の競売物件検索システムで調べる
  • 新聞の競売物件の広告欄をチェックする

などの方法があります。

競売物件は、不動産屋などを通じて買う、いわゆる「普通の不動産物件」とは違う点が多々あります。もちろん、競売物件ならではのメリットがあるから入札に参加する人がいるのですが、メリット以上にデメリットやリスクをしっかり理解しておかないと、とんでもない事態に陥るリスクが競売物件にはあります。

リスクとデメリットを理解しないまま、競売入札に参加してしまうと、ほぼ間違いなく、その投資は失敗に終わるので注意が必要です。

競売物件とは

ここでは、まず「競売物件とはどういう物なのか」について、ポイントを抑えておきましょう。競売物件と、その他の一般流通物件の大きな違いは、法律によって「買い手が保護されるのか、されないのか」という点です。

一般の不動産流通物件は、買主側の権利や、物件の品質、性能といったものが「宅地建物取引業法」という法律によって保護されています。たとえば、町の不動産屋で紹介してもらった物件の場合、買う前に中を見る事ができます。建物や部屋の中身が、どんな状態なのかを自分の目で確認してから、納得した上で物件を買う事ができます。

そして、物件を買う時には、不動産屋から物件の状況、瑕疵(建物の欠陥)の有無、契約の内容について説明(重要事項の説明)をしてもらいます。買った後も、鍵をちゃんともらって、物件を間違いなく引き渡して貰えます。

安全に取引できる保証がない競売物件

一般的な不動産取引の場合、万が一、購入した物件に欠陥や不具合がある場合には、損害賠償や契約解除も保証されています。「お金を出して物件を買ったのだから、こんなのは当たり前のことでしょ!!」と思うかもしれません。

ところが、競売物件の場合、こういった「当たり前のこと」だと思っていた内容が、すべて保証されません。競売物件では、原則として購入前の内覧ができません。買った後に鍵をちゃんと貰えるのか、物件を本当に引き渡してもらえるのかも、全部分からないのです。

この、「法律によって買い手が保護されない」というポイントを踏まえて、競売物件の特徴をさらに掘り下げていきましょう。

購入するための条件

競売物件を購入するためには、入札に参加して落札しなければなりません。入札には基本的に誰でも参加できます。

ですが、次の3つの条件に当てはまる人は、競売物件の入札に参加できません。

  1. 競売に出された物件の債務者
  2. 裁判所が入札参加者の制限を設けた場合、その資格を持っていない人
  3. 過去に、談合や不正入札で、競売が正しく行われることを妨害した人

1番目の「競売に出された物件の債務者」というのは、元々の物件の所有者です。

たとえば、マイホームのローンが払えなくなってしまい、銀行によって家を競売に掛けられてしまったケースで説明します。この場合、競売入札に参加できない債務者というのは、マイホームのローンが払えなくなってしまった家の所有者です。

ローンを払えなくなった家の所有者が、みずから競売で落札するということは、家が他人の手に渡るのを妨げる行為になります。

また、落札価格でローン残債すべてを支払えるケースはまれです。大抵の場合、ローン残債よりも安い価格で落札されていきます。

もし、債務者の入札を認めてしまうと、ローン残債より安い価格で家の所有権を取得できることになってしまいます。裁判所はこれを許さないということです。

2番目の条件は、たとえば農地の競売を行う時に、裁判所が入札者の参加資格に制限を掛けるということです。その場合、裁判者が指定した資格を有していないと入札に参加できません。

3番目の条件は当然の事ですが、過去に競売を妨害をした人は参加することはできません。この3つの条件に当てはまる人以外は、基本的に誰でも競売入札に参加できます。

購入する前の事前調査

法律で取引の安全性が担保されない競売物件の購入では、物件の事前調査が非常に重要になってきます。ここでは、競売物件の事前調査について解説します。

競売物件の調査では、最初に「3点セット」と呼ばれる物件資料を入手します。

物件明細書

物件明細書には、競売にかけられる不動産の権利関係などの情報が記載されています。具体的には、

  • 競売にかけられる不動産の売却が成立した場合に発生する法定地上権の有無
  • 抵当権設定登記の有無
  • 前の所有者が賃借人と締結した賃借権の引き継ぎの有無
  • 物件に占有者がいるかどうか

などが記載されています。この、権利関係のチェックを怠ると、様々なトラブルに巻き込まれるおそれがあります。

例えば、抵当権の設定登記をよく確認しないまま購入して、実は地上権の主張ができなかったというケースや、占有者がいて明け渡しでトラブルになるなどの問題が考えられます。

必ずしっかり目を通しておいてください。

評価書

評価書は、裁判所が選んだ不動産鑑定士によって作られた書類です。建物の構造や築年数、周辺状況の概要が記載されており、公図や写真なども添付されています。

そして、不動産鑑定士が物件の鑑定評価を行った結果、導き出された鑑定額とその根拠が記載されています。評価書に記載される評価額は、競売にかけられたことによる減額をしたあとの評価額になります。

また評価額を導き出した計算過程も書かれています。計算過程の部分をチェックすると、競売による減額をされる前の評価額もわかります。その他、評価額を計算するための根拠として使った、公示価格や固定資産税評価額も記載されています。

現況調査報告書

現況調査報告書は、裁判所の執行官が作成した書類です。実際に執行官が現地に行って、土地や建物の現状、占有者がいるのかいないのかなどを調べてまとめた報告書になります。

土地や建物の位置関係が記載された図面もありますので、道路付けがどうなっているのか確認しておきましょう。

現況調査報告書に書かれている、「関係者の陳述」や「執行官の意見」の部分は、現地を見たことのある人間の生の情報で、物件の情報が限られた競売物件において貴重な情報源です。

また、現況調査報告書にも、権利関係や占有者についての記載があります。占有者の有無や権利関係の実態は、競売物件を落札したあとに、どれだけ余計なリスクとコストが掛かるのかを左右する部分です。よく確認しておくことが大切です。

以上が、競売物件の事前調査を行う上で重要な「3点セット」になります。ただし、一つ注意をしておかないといけないことがあります。

競売に関わる書類のすべてに言えることですが、この3点セットを含めて、競売関係の書類に書かれた内容は、実態と同じであることが保証されていません。つまり、書類に書かれた内容と現状が違う、もしくは正しくないことがあることを知っておいてください。

競売物件を購入するリスク

ここまでの解説の中で、いくつか、競売物件に潜むリスクの話が登場しました。競売におけるリスクを考慮して、評価額を値引きしているのが競売物件です。

値引きを受けた金額と、新たな所有者が抱え込むことになるリスクとが、ちゃんと釣りあいが取れているのかを考えておく必要があります。そこで、競売物件の購入を検討する上で、かならず理解しておかなければいけない2つのリスクについて説明しましょう。

物件の瑕疵について何の保証もない

競売物件の場合、事前に建物の内覧ができないので、瑕疵があるのかないのか分かりません。また、瑕疵があったとしても、その責任を裁判所や前の所有者に追及をすることもできません。すべて、落札者が受け入れなければならないというリスクがあります。

一般の不動産流通物件の場合、宅地建物取引業法によって買主の保護がなされます。たとえば、売買契約をする時には発見できなかった欠陥を、定められた期間内に見つけた場合、買主は契約の解除や損害賠償請求ができます。

ですが、競売物件では、基本的に事前の内覧ができないので、実際のところ、建物内部がどのようになっているのかが分かりません。落札して家の中に入ってみたら、柱や基礎に深刻なシロアリ被害がある、耐震強度不足が発覚した、土地に土壌汚染があったというような事がありえます。

もし、これらが後から分かっても、落札者が自分の責任で処理しなければならないのが競売物件です。

引き渡し、占有者、残置物のリスク

さきほども話しましたが、競売物件は落札したからと言って、必ず物件を引き渡してもらえるわけではありません。占有者がいた場合、明け渡し時にトラブルが発生するリスクがあります。

所有権移転登記などの事務的な手続きについては、裁判所はきちんと行ってくれます。ですが、物件の引き渡しについては、裁判所はノータッチです。

占有者との明け渡し交渉は落札者が自分の責任で行わなければなりません。もちろん、費用も落札者の負担です。

占有者の明け渡しがスムーズに進んで、物件を引き渡してもらえれば問題ありません。ですが、占有者に不法占拠されると、買主は「引渡命令の申立て~強制執行」という流れで法的手続きを取らなければなりません。

強制執行までは最短で2ヶ月弱かかります。その間は、売ることも貸すこともできません。また、それらの法的手続きにかかる費用は、すべて買主負担です。

残地物があっても勝手に処分できない

また、建物内に前の所有者の残置物が残っていた場合、それらを勝手に処分したり捨てたりすることはできません。落札者が取得したのはあくまで建物の所有権であって、残置物の所有権は前の所有者にあるからです。

前の所有者が残置物をすんなり持って行ってくれれば問題ありませんが、そうでなければ、残置物の引取交渉をする必要があります。所有者の住所が分かっていれば、引取依頼を郵送します。

しかし、住所が不明の場合もあるので、その時は物件の周辺住民に聞き込みなどをして調べ上げる必要があります。それでも所有者が分からない、引取りをしてもらえないという時は、強制執行の手続きを行います。

くれぐれも勝手に残置物を処理しないようにしてください。ある日突然、所有者が現れた場合、いろんなトラブルに巻き込まれる可能性があります。必ず、法的手続きを行って処理をすることが大切です。

競売物件の購入について

ここまでの話しで、競売物件の概要、事前調査、購入する上でのリスクについて理解してもらいました。ここからは、実際に競売物件に入札してから購入するまでの流れについて説明します。

また、競売に参加する際に必要となる書類についてもまとめておきます。

購入する際の流れや手続き

競売物件の購入は、大きく分けて8つのステップがあります。各ステップについて順番に説明していきます。はじめて競売物件に入札しようとする人は、複雑で分かりにくいと感じるかもしれません。

ですが、今まで説明してきた内容を復習しながら、各ステップの手続きを具体的にイメージするようにして、何度も読み返してください。

1.競売物件選びと調査

どのような競売物件があるのか探すには、3つの方法があります。

  • 裁判所で競売物件の情報を閲覧する
  • インターネットと検索システムを利用する
  • 新聞の競売広告をチェックする

この中でも、もっとも手軽で簡単なのは、インターネット上の競売物件検索システムを利用することです。「BIT競売情報システム」一般社団法人不動産競売流通協会」で競売物件を検索できます。

また、このネット上の検索システムから、物件調査に必要な「3点セット」をダウンロードすることもできます。

2.入札~開札

競売物件を探す時に利用したネット上の検索システム「BIT競売情報システム」で、物件の入札開始日を見ることができます。それまでに、入札に必要な書類を揃えて申込みをします。

裁判所で入札セットと呼ばれる書類一式をもらい、記入して、指定口座に保証金を振り込みます。

開札の日時も「BIT競売情報システム」で確認することができます。開札結果は裁判所で見ることができますが、「BIT競売情報システム」でも確認することができます。

3.売却許可決定確定

無事に物件を落札すると、開札日の7日後に売却許可決定がされます。売却許可決定後、一週間以内に不服申立てがなければ、「売却許可決定の確定」がなされます。

もし、不服申立てがあった場合は裁判が開かれ、裁判が確定するまで1カ月~3ヶ月の時間がかかります。その間、「売却許可決定の確定」を行われません。

4.明け渡し交渉

「売却許可決定の確定」がされるまでは、代金の支払いができません。代金の納付が完了しないと、引渡命令~強制執行の申立てもできません。

そのため、占有者がいる場合は、このタイミングで明け渡し交渉を行います。明け渡し交渉のやり方は様々で、ここで何がいいかを一言でいいあらわすことはできません。

筆者は長年、不動産業界で働いてきましたが、個人的には素人がお金で解決しようとするのはおすすめしません。上手くいかないリスクや、更なるトラブルに巻き込まれる可能性があるからです。

それなら、最初から競売のプロに委託するか、強制執行を行う方が確実です。

5.代金納付

売却許可決定が確定すると、裁判所から「代金納付期限通知書」が送られてきます。「代金納付期限通知書」に書かれている内容にしたがって、間違いの無いようにお金を納付してください。

6.引渡し命令~強制執行

代金の納付が終わると、引渡し命令の申し立てができるようになります。占有者との明け渡し交渉がうまくいっていない場合は、すぐに申し立てをしてください。

引渡し命令が確定したのに、それでも明け渡しに応じない場合は、強制執行の申し立てを行います。最後は裁判所の執行官によって強制執行が実行され、明け渡しを行います。

7.所有権移転登記~権利証の交付

代金が納付されると、裁判所の書記官が所有権移転登記や抵当権などの登記の抹消を、法務局に頼みます(この頼むことを嘱託すると言います)

登記の嘱託が完了すると、裁判所から「登記識別情報通知書」が送られてきます。この「登記識別情報通知書」は「権利証」にあたるものです。

今後、物件を売却して所有権移転登記をする際に必要となるものなので、大切に保管してください。最後に物件の引き渡しを受けて終了です。

必要書類まとめ

最後になりましたが、競売入札の申し込み時に必要な書類その他をまとめておきます。落札後に必要な書類については、裁判所の指示に従って準備してください。

  • 裁判所でもらう入札セット(裁判所保管金振込依頼書、保証金振込証明書、入札書、入札用封筒)
  • 住民票(個人入札の場合)
  • 代表者の資格証明書(法人入札の場合)
  • 印鑑
  • 保証金

まとめ

今回は競売物件についてお話しました。

競売によるリスク分の値引きがなされるので、一見すると、お得な感じがする競売物件。ですが、リスクの解消にかかる手間暇とコストが、値引き金額と比較して本当にお得なのかどうかを考える必要があることが、分かっていただけたのではないでしょうか。

「競売で安く物件を手に入れるはずが、結果的に余計な手間とコストが掛かってしまった。これなら普通の物件を買った方が、利回りがよかった」という事にならいないよう、競売に関する知識をしっかり身につけてから入札に参加してください。


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