アパートやマンションの経営は有効な土地活用の1つとして、多くの土地オーナーによって経営されています。中には何千万円、中には億を超える収入を得ている人がいることからも、その収益性の高さが伺えます。
しかし、これは極ひと握りの人の話で、アパートやマンションの経営に手を出した人すべてが同じような収入を得ているわけではありません。しかも現在取り沙汰されている少子化問題を考えれば、将来的な入居者確保も心配なところです。
アパートやマンションの土地活用は初期投資に必要な費用が高額になるため、20年、30年といった長期的な経営計画が必要になってきます。となればさらに少子化が進む数十年後にも、十分な居住者確保ができなければ経営の成功は見込めません。
そこで今回はアパートやマンション経営の実情と予測を検証していきながら、その経営の将来性について考えていきます。
アパートマンション経営の将来性
アパートやマンション経営で必要なのは居住者の確保です。現在、アパートやマンションの経営で成功するにも、どのような入居者確保対策を講じているかが重要なポイントとなってきます。
しかし、対策を講じることで問題を解決できるのは、あくまで需要と供給のバランスに大きな隔たりがない時です。需要と供給のバランスが取れてさえいれば、集客努力によって居住者の確保は維持できるでしょう。ですが「需要 < 供給」という状態が深刻になれば、入居者確保はさらに難しくなってしまい、決して有効な土地活用とは言えなくなります。
現在のアパートやマンションの数
それではまず現在の実態を把握するため、アパートやマンションの数がどうなっているのかを見てみましょう。
本来日本においては持ち家率が多く、賃貸物件の占める割合は極めて少ないものでした。しかし、国土交通省が公表した統計を見るとそれも昭和30年を境に上昇傾向に転じ、バブル期には賃貸物件の年間供給戸数が全体の約50%にも上りました。
これが現在の賃貸物件増加の出発点となるのですが、その後は緩やかな下降傾向となりながらも、それでもここ20年の供給戸数割合は40%前後の数値を維持し続けています。
実際に平成25年度(2013年度)の民間賃貸住宅戸数の統計調査では、賃貸物件の数は全国で15,864,100戸にも及んでいます。こ数値を日本の人口に照らし合わせば、国民10人に1人の割合で賃貸物件が供給されている状態です。
10人に1人の割合で供給されていると言われても今一ピンとこない方が大半のことでしょう。そこで参考にしてもらいたいのが空室率です。この空室率を見ればその時点での重要と供給のバランスは一目瞭然で判断できます。
現在のアパートやマンションの空室率
平成25年(2013年)時点の空き戸数は3,599,700戸で空室率は22.7%です。この時点でも20%の供給過多状態であることが見て取れます。望ましいとは言えない供給バランスは既に数年前から始まっていました。
しかし、この時点から平成29年(2017年)時点まで新規のアパートやマンションの建築数は減ることがなく、前年比伸び率も持ち家を上回る状態が維持されています。となればさぞかし空室率の問題が改善されたのかと期待してしまいますよね。
しかし、空室率の問題は改善されることなく、さらに上昇して30%を上回っているのが実情です。つまり、現状は需要と供給のバランスは決して好ましい状況ではないのに、依然、物件新築数は伸び続けているというわけです。
空室率が高くなっているのに建築数が減らないわけ
空室率が減ることなく高くなっている実情を知れば、高額投資となるアパートやマンションの経営に乗り出す数は減っていくのが普通です。しかし、この実情は関係ないと言わんがばかりにアパートやマンションの建築数は減るどころか緩やかではありますが上昇傾向にすらあります。
この不思議な現象は何が原因で引き起こされているのでしょうか。それには下記の2つが挙げられます。
- 相続税対策目的の新築建設が増加
- 低金利による融資緩和
資産は現金で保持するよりも不動産とした方が課税評価額は低くなります。この節税対策としての新築建設も物件新築数が減らない原因の1つです。数年前の税法改正に伴い課税対象者の範囲が広がったことと、税額が増えたことも大きく影響しています。家賃収入も見込めるアパートやマンションで、節税対策をと考える人を急増させました。
また政府のマイナス金利政策により、住宅ローン金利が低金利となったことも原因の1つです。これまでは資金のある人しか手が出せなかったアパートやマンションの不動産投資に、サラリーマン投資家が参入したことが建築数の増加に影響を与えていることは確実です。
しかも、利息発生の懸念から日銀に資金を預けておけない銀行が最適の融資先としたことも、サラリーマン投資家を急増させた原因となっています。
以上のように現状のアパートやマンションへの投資はその有効性に目を向けたものではなく、下記のように経営者と銀行との思惑がいり混ざった結果であるとも言えるでしょう。
- 相続税対策をしたい
- 低金利を利用して投資に乗り出したい
- 溢れた資金の融資先を見つけたい
人口の推移予想
それではアパートマンション経営の実情がわかったところで、将来的な経営に一番大きな影響を及ぼすこととなる日本の人口推移の予測を見ていくことにします。
今回参考にするのは内閣府が平成24年に公表した「将来推計人口でみる50年後の日本」です。ここで予測されている人口推移は下記のとおりです。
- 平成32年(2020年) 124,100(千人)
- 平成42年(2030年) 116,618(千人)
- 平成52年(2040年) 107,276(千人)
- 平成62年(2050年) 97,076(千人)
- 平成72年(2060年) 86,737(千人)
アパートやマンションの経営が20年から30年と長期的展望を持ったものとなることを考えれば、20年後の107,276(千人)、30年後の97,076(千人)の予測数値は決してプラス材料とならないことは明白です。
入居者確保という観点からも、この人口減少の流れは決してアパートマンション経営に将来性があると言えないでしょう。
経営の将来性は?
今回はアパートマンション経営の将来性を測るために欠かせない情報を見てきましたが、どれもが将来性のある事業だと指し示していないのが実情です。アパートマンション経営が全くダメな投資先であるとは言いませんが、人口が減少しているに、新築建設が止まらない実情を考慮すれば、さらに空室率が増加することは簡単に予測がつきます。
となれば決して将来有望な事業であるとは、口が裂けても言えません。
現在はアパートマンション経営に乗り出しやすい条件が揃っていますが、だからといって簡単に手を出していいものではないのが実情です。中には今後の問題として賃貸物件の新築数を行政により管理することを挙げる声もありますが、実際に重要と供給のバランスを整えるための政策は必要になってくるでしょう。
しかし、現状ではそのような政策はないに等しいので、アパートマンション経営を始めようという人は、長期的な経営計画を慎重に練る必要があります。
税金対策になるとか、低金利で手が出しやすいという理由だけでは、将来的には多くな負債を抱えるだけで、プラスとなる投資とはなならない可能性が高くなります。この点をよく理解して、後悔のない投資となるよう、始める際にはじっくりと検討するようにしましょう。