賃貸経営を始めるにあたり慎重に物件を選んだとしても、借りてくれる人がいなければ収益物件としての意味がなくなってしまいます。空室が長期間続けば、物件管理の手間ばかりがかかり、結果として損になってしまうこともあり得ます。
せっかく購入した収益物件が空室だらけでお荷物になってしまわないためにも、物件をいかにして満室にするのか、空室をつくらないためのノウハウが必要です。
不動産投資は、収益シミュレーションの結果が良い物件を購入しただけでは終わりません。むしろ、購入したことでやっとスタート地点に立ったと言えます。物件の購入をしただけで安心をせず、物件を育てていく姿勢を忘れないようにしましょう。
今回は、収益物件を購入した後にどんな対策をすればいいのかについて取り上げます。すなわち、空室リスクにまつわる話です。いかにして空室を減らし、なくしていくのか。これが不動産投資を成功させる道であり醍醐味です。
マンションをはじめとする不動産投資では、部屋という生活空間を提供することで入居者から賃料をもらいます。この基本に立ち返れば、入居者が住みやすい物件かどうかが空室にならないためのポイントであることが分かります。
不動産経営における空室率問題
全体的な傾向として、日本は現在、空室が増えている状況にあります。その理由を知らずに不動産経営に乗り出すと、まわりと同じように空室になってしまうかもしれません。現状をしっかりと把握することが、空室を防ぐ第一歩になります。
まずは賃貸物件全体の空室に関する基礎知識から解説して、そのあとに具体的な空室対策を取り上げていきます。
空室率とは
賃貸の対象となっている部屋のうち、入居者のいない空室の割合が空室率です。空室率が高ければ、稼働していない部屋が多くなっていることを意味します。
空室率を計算式に表すと、次のようになります。
空室率(%)=空室の数÷賃貸の対象となる部屋数×100
非常に簡単ですが、丸暗記をしなくても「部屋数に対する空室の割合」という理屈だけを覚えておけばいいと思います。具体的に計算してみましょう。賃貸している部屋数が20あって、そのうちの2部屋が空室であれば、
2(空室数)÷20(全部屋数)×100=10%の空室率
ということになります。
尚、今回は「部屋の数」をもとにした空室率を取り上げますが、実は、空室率には他のデータをもとにして算出されるものもあります。例えば、「床面積」や「賃料」です。
床面積をもとした空室率であれば、建物全体のうち、空いている面積の割合が算出されます。大きな部屋が空室の場合と小さな部屋が空室の場合では、大きな部屋が空室になっているほうが、空室率が高くなるわけです。
賃料をもとにした空室率では、満室時の賃料収入から、どのくらいの割合で収益が落ちているかが分かります。
いずれも割合を計算するため、床面積や賃料がすべて同じ部屋を賃貸しているのであれば、部屋数をもとにした空室率と同じになります。
今回は、個別物件の投資効率の分析で空室率を使うわけではなく、空室の定義を「入居者がいない部屋」として、そこに入居者を呼んで満室にするためのコツを紹介します。
そのため、この記事で空室率と言うときは、分かりやすく部屋数をもとにした空室率を指すことにします。
空室率の推移
部屋を借りてもらうためには、部屋を借りたい人がいる地域に賃貸物件があればいいわけです。つまり、「需要と供給」の問題です。
理論上、需要と供給がちょうどいいバランスを保っていれば空室にはなりません。反対に、需要と供給のバランスが崩れ、需要のほうが多ければ、どの物件も満室となり、供給過多になってしまえば空室が増えてしまうことになります。
不動産の需要と供給は、その時々の経済状況や人口など、多彩な要素によって決まり、時代背景によって上下動します。そのため、空室率の推移を見ることは、不動産投資に参入するべきタイミングかどうかを見定めるひとつの指標にもなります。
地域別、構造別の空室率推移から分かること
タスという不動産調査会社が実施しているデータの地域別の空室率を見ると、2017年現在、東京都23区の全体的な傾向としては改善傾向にありますが、近隣の埼玉県、千葉県、神奈川県は横ばいか下降気味の傾向を示しています。
また、関西圏、中京圏、福岡県の空室率も、横ばいか緩やかにやや上昇している傾向が見られます。
では、物件の構造別の空室率はどうでしょうか。構造については主に以下の4種類になります。
- 木造
- 鉄骨造
- 鉄筋コンクリート(RC造)
- 鉄骨鉄筋コンクリート(SRC造)
賃貸物件の場合、木造や軽量鉄骨造(鉄骨造の一種)は小規模アパート、その他の構造はマンションで採用されています。
空室率を調査したデータを見ると、木造、鉄骨造、鉄筋コンクリート(RC造)、鉄骨鉄筋コンクリート(SRC造)共に、近年の空室率が上昇していることが分かります。残念ながら、全体としては収益物件全体の空室率が上がっている傾向です。
特筆すべきなのは、30%前後で推移していたアパート(木造や軽量鉄骨造)の空室率が、2015年3月から急激に上昇している点です。
こちらもタスという不動産調査会社が調査ですが、2016年9月には、東京23区で34,7%、神奈川県で36,87%にまで上がってしまいました。2004年の調査開始以来、最高の数字とのことで、アパートが供給過多になっている状況が見て取れます。
ただし、東京都23区、及び東京市部の全体的なトレンドは改善傾向にあるので、小規模アパートの空室率の上昇が際立っていると言えるでしょう。どうしてアパートの空室率が上がっているのかにも理由があります。それはまた後ほど解説していきます。
空室率が上昇している原因
繰り返しとなりますが、需要と供給のバランスが崩れてしまうと空室は増えます。賃貸物件に住みたい人がいるところに賃貸物件があればいいのですが、現在の不動産を取り巻く状況としては、人口減少という流れにありながら、賃貸物件の供給が過剰になっています。
賃貸物件があっても、そこに住む人がいないのが現状です。
節税対策でマンションが増えた?
不動産投資家なら、収益シミュレーションをしてから投資を実施するはずなのに、なぜこのような状態になっているのでしょうか。シミュレーションがまったく意味をなしていなかったということなのでしょうか。
この問いの答えとしては、「相続税制の改正」が、現在の空室率上昇の原因だという話があります。
賃貸物件の需要と供給のバランスの話に、どうして相続税が関係するのでしょうか。端的に言ってしまえば、相続税を節税したいがために賃貸物件がどんどん建設されていったからです。
2015年1月から、相続税が増税となりました。詳しい説明は省きますが、それまでは基礎控除額の多さから、一部の資産家にしか課税されなかった相続税の対象が、ごく普通の家にまで広がっています。
改正前
基礎控除額=5,000万円+1,000万円×法定相続人数
2015年1月から
基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人数
この改正によって、基礎控除額がそれまでの6割になってしまいました。法定相続人が3人いる場合、改正前は8,000万円が基礎控除額となりますが、改正後は4,800万円まで下がります。
改正前では8,000万円あったとしても相続税がかかりませんが、改正後は課税対象となります。よって、資産の多くない一般の人であっても、相続税に対する関心が高まっているというわけです。
そこで、どのようにすれば節税できるのかという話になります。被相続人が持っている資産の評価が下がれば相続する際にかかる税金が減ります。現金を持っていると額面通りの評価となってしまいますが、不動産の相続税評価額は、購入した金額よりも低くなります。
賃貸物件を建てることによって計算上の資産価値が減少し、マンション建設が相続税を圧縮するという理屈です。
このように、投資の採算性よりも相続税の節税を目的とした賃貸物件が乱立し、供給が過剰になってしまったがゆえに、供給が需要を上回り、空室率が上がった理由のひとつと考えられています。
賃貸需要のないところにマンションやアパートを建ててしまったら、空室が増えるのは当然です。それでも相続税の節税という一定の目的は果たされるので、同じような事例が増えているということです。
融資が受けやすくなった?
節税以外にも、金融機関の融資のスタンスが変わってきたことも、空室率上昇の原因として考えられています。賃貸住宅を建てるためのお金が借りやすくなり大家になるためのハードルが下がって、需要とは関係なしに物件が増えているというのです。
不動産投資は「お金持ちがすること」と思っていた人が多いと思います。アパートやマンションを買うための金銭的余裕や、金融機関から多額のローンが組めるほどに信用力のある一部の人だけのもの、という意識があったからではないでしょうか。
それが今や、一般的な普通の会社員に対しても、不動産投資のためのローンが組めます。現に、銀行が一般人を対象とした不動産投資セミナーを頻繁に開催していて、参入のハードルが低くなっています。これだけをとってみても、金融機関がお金を貸すための理由として、普通の人が行う不動産投資に着目していることがよくわかります。
以前と比べると、金融機関から借りられる金額が多くなっている傾向にあるようです。今までは融資してくれなかった額でも借りられたというケースもあり、金融機関が不動産投資家への融資を積極的に行いたいと考えていることが推測できます。
こういった金融機関の変化には、マイナス金利政策が影響していると考えられます。これまでは各銀行が日本銀行に預けているお金には利子がついていました。しかしマイナス金利となってからというもの、日本銀行にお金を預けたままだと、逆に各銀行から日本銀行に対して日本銀行に支払わないといけません。
銀行に預けているだけでお金が取られるのであれば、自分で貯金したり別の運用方法を考えますよね。
実際、日本銀行が出しているデータを見ても、2015年頃から賃貸物件向けの融資額が増え、マイナス金利が導入された2016年以降は急増しています。
マイナス金利政策は、世の中にお金を循環させる目的があります。各銀行は日本銀行にお金を貯めておくと損をするわけですから、貯めておくよりも企業や投資家にお金を貸した方が儲かるわけです。
マイナス金利政策を背景として、金融機関からお金が借りやすくなっています。これまで不動産投資家として活動していた人は投資を拡大しやすくなり、初めての人でもあっても不動産投資に参入しやすくなっている状況が生まれています。
結果的に賃貸物件がどんどん増え、供給が過剰になり空室を生んでいるという流れです。
大きな視点で空室を考えると、相続税制の改正や、金融機関の融資動向などの経済ニュースも関係していることが分かります。
不動産投資家として成功するためには、こういった社会情勢のチェックも欠かさず行い、どういう状況に置かれているのかを把握しておくのもポイントです。
大家が放置している?
不動産投資は不労所得の代表のように語られることが多いのですが、満室経営を続けるのには、知識や経験に加えてノウハウが必要です。
何もせずに放置していても入居者が入ってくれるというわけではないので、空室になったからといっても諦めずに、なんとかして満室にしようとする努力や行動が欠かせません。
しかし、それはあくまでも理想であって、様々な工夫はしてきたけどうまくいかないケース、思った以上に収益が伸びずメンテナンス費用もままならないケース、建物の老朽化が進み本来であれば取り壊すべきものをそのまま放置しているケースなどがあり、空室がそのままになっていることも多くあります。
大家それぞれに事情があるので一概には責められませんが、空室対策を怠っているケースがあるのも、空室率が上昇する原因の一端だと言えます。
入居率を上げるコツ
大家が取るべき対策を怠っていることも、空室率アップの原因のひとつだと指摘しました。それでは、空室にならないための方法としては、どんなものがあるのでしょうか。
大家一人の力ではどうすることもできない、社会状況の影響を受けてしまうのは仕方ありませんが、それは外的要因です。
大切なのは、収益物件そのものが空室を生む原因をつくらないことです。空室の原因は外的要因だけでなく、マーケティングや物件の状態に問題がある事が多いです。
空室が続き、なかなか入居希望者が現れないのであれば、物件自身が空室の理由をつくっている可能性を自覚しなければなりません。まずはどんな要因で空室になっているかを探ることから始めていきましょう。
これから紹介する空室対策を実施してきたかどうかを確認すると、空室対策として足りないところが見えてきます。あなたのこれまでの不動産経営と照らし合わせてみ下さい。
入居者のニーズを満たす物件を提供する
物件によって特徴が異なるので、気に入ってくれる人もいれば、全く見向きもしてくれない人もいます。ということは、すべての人が借りたいと思う物件は存在しないことを前提にすると、部屋を借りたい人のニーズに適した物件にすれば、空室を減らせることになります。
ニーズを把握するには、立地情報がカギとなります。その場所に住んでいる人はなぜその場所に住んでいるのかを考えると、どんな物件を欲しているのかがだいたい分かってきます。そして、そのニーズを満たす物件を借りたがっている人が、入居して欲しいターゲットとなります。
当サイトの「不動産投資で重要な表面利回りと実質利回りの計算」の記事でも紹介した通り、立地によって選ぶべきターゲットは変わります。
例えば、大学が近いエリアは学生がターゲットですから、購入するべき収益物件は、ファミリータイプの4LDKではなく、なるべく賃料の安い、一人暮らし用のワンルームマンションが投資対象に適しています。
学生ばかりのエリアで、ファミリータイプのちょっと高級な物件ではミスマッチと言わざるを得ないでしょう。需要と供給がマッチしていなければ、借り手は見つかりません。
立地に見合ったターゲットを決めれば借り手が見つかりやすいので、先に決めたターゲットに照準を合わせながら、立地を逆算していくのでもいいでしょう。このように、立地とターゲットの関係をうまく利用して物件を選ぶことも空室対策となります。
しかし、物件購入後に立地とターゲットの乖離に気づいても少し遅いので、物件の購入前にしっかりと考えておきましょう。
相場に適した賃料を設定する
借り手が物件を比較する際には、希望地域にある物件情報を集めます。そして、毎月払える予算と希望条件のバランスを考えながら、物件を絞っていくのが一般的です。
賃料が同じであればその他の条件が決め手になりますし、間取りや周辺環境がイマイチなら賃料の安いほうを選びます。また、他と比べて優れた条件を持っていないにも関わらず賃料が高い物件なら、当然借りてくれないでしょう。
物件を貸す大家の立場としては、その地域の相場や類似物件と離れない賃料を設定しなければなりません。気を付けたいのは、必要以上の安値は避けることです。割安であれば価格競争には勝てますが、肝心の収益面に影響がでてしまいます。
反対に、投資金額を早く回収したいと思って高額の賃料を設定するのは逆効果です。賃料を設定するときは、必ず類似物件の家賃を確認して、相場との兼ね合いで決めていきます。相場価格は、物件情報サイトを活用して調べてみるのもいいですし、不動産業者に聞いてみてもいいでしょう。
入居希望者を逃さない賃料テクニック
ここで、賃料に関するちょっとした裏テクニックを教えます。不動産業者が入居者を募集する際には、物件情報を店頭やインターネットに公開することになります。それを見た賃貸希望者が問い合わせをし、業者が物件の説明を行っていきます。
そのとき、賃貸希望者が価格交渉をしてくる場合が多いです、それに備えて、物件情報に掲載する賃料を想定賃料よりも少し高めにして、交渉の余地を残しておくのが交渉上手なやり方です。最初に設定した賃料で先方が納得して借りてくれるのであれば、嬉しい誤算になります。
賃貸希望者も色々と調べて物件を探しにくるので、「大家に相談すれば安くなる可能性がある」ことを知っています。「○○万円にしてくれるなら借ります」など、ダメもとで気軽に値切ってきたりもします。
ただし、気を付けなくてはならない注意点もあります。あくまでも「公開情報に提示している賃料で貸すつもり」という姿勢が、たとえ建前であったとしても必要です。そうでなければ、不信感をもたれかねません。
このテクニックを使う場合は、「借りてくれるならここまでは下げられますよ」という交渉の一貫であることを忘れないでください。
入居時に賃料交渉が行われて数千円程度が安くなる例は結構あります。それを考えると、ネットなどに公開されている賃料額は、実際に大家が徴収している額よりも高くなっている可能性が否定できません。
「大家が許容できる賃料と、賃貸市場で公開されている賃料とは異なるケースも多い」というのが、ここで紹介したかった核となる部分です。
いずれにしても、空室を減らすための賃料設定には、類似する物件の賃料データが欠かせません。入居希望者は周囲の物件とあなたの物件を比べるからです。もしも類似物件よりも割安なのにも関わらず空室が続く場合には、賃料以外の理由で入居者が集まらない可能性が高いと判断できます。
購入前にシミュレーションした賃料でも空室が出てしまう場合には、もう一度基本に立ち返り、周辺で設定されている賃料を確認してみてください。
敷金や礼金を減額する
賃料を下げる以外では、敷金や礼金を減額する方法も、お得な物件であることの演出としてしばしば利用されます。借り手としてはそれだけ初期費用がかからなくてすむため、借りやすくなります。中には、「敷金ゼロ、礼金ゼロ」なんていう「ゼロゼロ物件」もあります。
ただし、敷金の減額はあまりおすすめできません。なぜかと言うと、賃料の未納や借主が負担するべき修繕費用へ充当するために、あらかじめ預かっているという名目があるからです。
敷金ゼロの物件で賃料が未納になってしまったら、回収が面倒です。敷金をもらっていれば、そこから未納分を差し引き、悪質な未納の場合には退去依頼も可能になります。敷金は保険のような役割を果たすので、敷金をゼロにするというのは避けたほうがいいのです。
一方の礼金は、減額しても差し支えありません。こちらはその名の通り、「御礼」の意味合いが強く、満額が大家の懐に入ります。礼金が新規契約のネックとなっているようであれば、思い切ってなくしてしまうのも1つの方法です。
フリーレントを活用する
「フリーレント」という言葉をご存知でしょうか。これは、一定期間、物件を無料で貸してあげることを指します。だいたい、一ヶ月か二ヶ月分の賃料を無料にします。
そうすれば、借り手としては初期費用を抑えられます。入居希望者からすると、賃貸契約を結ぶ段階で、敷金、礼金だけでなく、直近の賃料を用意する必要があって、費用負担は多額になります。そのため、少しでも金銭的な負担を軽くしたいと考えるのは当然のことです。
なるべく早めに空室を埋めたいのであれば、フリーレントを設定することで借りてくれる可能性が上がるのですから、大家にとっても大きなメリットになるでしょう。
また、借り手が月の途中で引っ越しを余儀なくされた場合、それまでに住んでいた物件と新しく契約する物件の両方に対して家賃を支払うことになってしまいます。契約の切り替え日にちょうど引っ越しが終わるとも限らず、もう住まない家への家賃がムダになり、損をします。
引っ越した初月がフリーレントならこの問題も解消され、借り手としては嬉しいものです。フリーレントは、経済的な負担を軽くする意味で、新規契約への動機になります。
空室状態が続くことに比べたら、二ヶ月分ほどの賃料をサービスするのは痛手ではありません。ただし、「フリーレントを実施している物件はあまり人気がない物件」と判断されてしまうこともありますから、闇雲にフリーレントを行うのはあまりおすすめできません。
さらなるデメリットとしては、「フリーレント分を回収するために賃料が割高になっているのかもしれない」と、警戒感を持たれる可能性もあります。
あまり最初からフリーレントを推すのではなく、入居を検討している人と交渉をする段階で、「フリーレントもできますよ」という後押しで使うのがいいと思います。
長期間住んでもらうことも立派な空室対策
既に借りてくれている入居者にずっと借りてもらうことも、大きな意味を持つ空室対策です。せっかく入居してくれたにの短期間で出ていってしまうのであればもったいないですし、一向に空室率が改善されません。
転勤などの個人的な事情があればどうしようもないですが、物件への不満を持たれないようにすることはできるはずです。入居者が離れる内部要因を減らす努力をしていきましょう。
そのために忘れてはならないのは、物件選びでも重要だった「快適な住空間を提供できているか」という視点です。住みやすいと感じてもらうことが、長期契約につながるからです。
共有部分の管理の徹底や、清潔にするための清掃を欠かさず行うことは、ごく基本的な入居者対策です。
エレベーターがしょっちゅう壊れてしまったり、オートロックの玄関に不具合が頻発したり、廊下や玄関に設置してある照明がずっと暗いままだったり、このような小さなことから入居者の物件に対するポイントが下がっていきます。
これらのチェックポイントは、常に注意深く物件を見ていれば気付けるはずです。大家として日頃からの巡回が難しいのであれば、物件管理を専門に行っている業者への依頼も検討しましょう。
また、入居者からの依頼やクレームにも、迅速な対応を心がけてください。「クーラーが故障してしまったので、なるべく早めに修理してほしい」、「隣室の住人が夜に騒いでいてうるさい。大家から注意してほしい」などなど、入居者からのクレームは多岐に渡ります。内容はどうあれ、まずはいったん、その声を受け止める必要があります。
さまざまな依頼や注文があるので、大家だけではなかなか対応しきれないこともあるでしょう。しかしそんなときに、「私に言われても困る」、「そんなささいなことは自分で解決しろ」といったように、投げやりな態度をとってはいけません。入居者が何を感じてクレームに至ったのかを、大家の立場として把握するのが、忘れてはならない大切なポイントです。
大家だけでは解決せず、入居者自身が大変な思いをしてしまった場合でも、最初の窓口である大家が真摯に対応すれば、それだけでも入居者の不満がある程度は解消されるものです。
逆に、クレームを発した入居者に大家の対応が不誠実だと感じられてしまえば、「もうここには住みたくないから更新時期に出ていこう」と思われてしまいます。
このように、長期で住んでもらうためには、入居者の話に耳を傾ける姿勢を持つことが必須条件です。まずはしっかりと話を聞き、中身を精査し、管理会社へ連絡するなど、適切な対応を取ることが、効果的な空室対策となることを覚えておいてください。
信頼できる不動産業者に入居者募集を依頼する
空室が出たときの入居者募集は不動産業者が実施しますので、ダメな不動産業者に入居者の仲介を依頼してしまった場合、空室リスクが高まることになります。顧客が多く、借り手を見つけるのが得意な不動産業者に依頼するのが鉄則です。
実力のある不動産業者に最初からあたればいいのですが、現実問題として、そう簡単に信頼できる業者は見つかりません。物件探しをする段階から、業者を見極めるテストのつもりで接していきましょう。物件を紹介するときのスタッフの態度や物件知識、質問に対する受け応えなど、細かいところもよく見ておくようにします。
いい不動産業者というのは、多少面倒に感じるようなことであっても丁寧に答えてくれますし、それぞれの返答に筋が通っています。なぜか話をはぐらかしたり、的を得た回答が返ってこず、すべてが場当たり的な場合も残念ながらあります。そんな業者であれば、その後の物件管理など、深い付き合いは考え直したほうがいいでしょう。
物件の購入を仲介してくれた業者に、管理も頼まなければならないといった決まりはありませんし、入居者募集は一社しか依頼できないものでもありません。信頼できる業者が見つかるまでは、複数の業者に入居者募集を依頼するのが合理的です。窓口をたくさん持てば、それだけ入居希望者との接点を増やせるからです。
信頼できる不動産業者と出会うために
ただ、複数の業者で入居者募集をかけるとしても、信頼のおける業者を見つけておくことは、また違った意味での空室対策になります。既存の入居者が出ていくことが分かった段階で動いてくれて、空室をすぐに埋めてくれるような業者が理想です。
契約トラブルへの適切な対応や、メンテナンスや物件管理に関するアドバイス、物件新規購入の際の資金計画のサポートなど、空室を生まないためのノウハウが業者にはあるはずです。それらのノウハウを惜しげもなく教えてくれるような業者だとベストですね。
おすすめは、複数の業者とコミュニケーションを取ってみて、自分に対して率直に意見を言ってくれる業者を探すことです。日頃から不動産業界について勉強していたり、真剣に仕事に取り組んでいる人でなければ、自分の意見を持てません。顧客からの問い合わせにどう対応するかによって、業者の実力が見えてくるからです。
残念なことですが、業者にとって大家はお客さんなので、当たり障りのないことばかり言ってくることが多いです。大家からして見れば大切な内容であっても、売上にマイナスになりそうなことだと、はっきりとは教えてくれなかったりします。
信頼できる業者を探す大家としては、このことを逆に利用すればいいのです。すなわち、耳障りのよくないことであっても、大家が知っておいた方がいいことを教えてくれるかどうかが、信頼できるかどうかのポイントになるということです。
当たり障りのない情報なんて、いまの時代、ネットを検索すればすぐに出てきます。そんなつまらないことを並べ立てる業者よりも、その業者だからこそ持ち得る経験に裏付けされた情報を提供してくれたり、どんなささいな質問にも誠実に応対してくれたり、真摯に向き合ってくれる業者を選ぶのが肝心です。
たとえちょっととっつきにくい人であったとしても、時には厳しいことも指南してくれる不動産業者に出会えれば、投資家にとってこれほどラッキーなことはありません。裏を返すと、心の底から信頼できる不動産業者を見つけるのはとても時間のかかる作業なのです。
複数の業者とコンタクトを取れば、それだけいい業者と巡り合える可能性が増えていきます。手当たり次第といえば大げさかもしれませんが、最初のうちは特に、できるだけ多くの業者と接触してみるのがいいと思います。
物件に付加価値をつける
物件に魅力があれば、それだけ入居者をひきつけます。個性のないいたって普通の物件ばかりだと、賃貸希望者は賃料の安さでしか物件選びができなくなってしまいます。さらに、人口がどんどん減っていっている現状では、借り手が好きな物件を自由に選べる、いわば、「物件借り手市場」とも言えるわけです。
大家の立場からすれば、価格競争はなるべく避けたいところですが、アピールポイントが家賃の安さだけでは、築年数の経過と合わせて、どんどん賃料を下げざるを得なくなります。
そうではなく、賃料に見合うまたはそれ以上の価値を提供し、入居者に物件の魅力をアピールすることが大事です。実際には、「個性のある物件にモデルチェンジして、その個性を気に入ってくれる人に住んでもらう」ことです。
例えば、家具をすべて揃えて借り手の負担を減らしてあげるというのもいいでしょう。お洒落なインテリアが並んでいて、それを自分で購入しなくていいとなれば、十分なアピールポイントになります。
この対策の注意点としては、他の物件との差別化です。他の物件にはない個性を打ち出して、熱烈なファンを生み出していきます。個性をつくって、その個性を気に入ってくれるターゲットに住んでもらうというやり方です。
この方法は、不動産業界の情報を常にチェックしているような、本当に不動産が好きな人におすすめです。自らの頭で考えて魅力あふれる物件にしていくのは、とても楽しい作業でしょう。少々手間がかかりますので、じっくりと不動産投資と向き合える場合にも向いています。
物件の個性が客を呼ぶ
地方には、大家自らが設計図なしで建てた「セルフビルド」で、
- 部屋番号がバラバラ
- すべての間取りがまったく違う
- 通路に車が停められている
- 地下へのスロープがある
- ベランダの仕切りがない
- 屋上で流しそうめんや飲み会が開催される
などなど、強烈な個性を放つ物件が存在します。こういう特徴を面白がれる人にとって、このマンションは楽園でしょう。しかしベランダの仕切りがなくてプライバシーが確保されないなど、ちょっと不便なことに目がいく人もいるはずです。
でも、こういう特徴があるがゆえに、それを面白いと思ってくれる人が集まる場所として認知されれば、それはそれで十分なのです。みんなに好かれる必要は、必ずしもありません。
ここまでするのは難しいにしても、不動産業界の流れとして、同じマンションに住んでいる住民同士のつながりを重視したい人が増えてきています。隣の部屋にどんな人が住んでいるか分からない物件に住むよりも、住民みんなでごはんを作って食べるような食堂があったり、建設段階から住民が意見を出し合う物件など、ご近所づきあいのある物件が人気を呼んでいるのです。
マンションを中心としたコミュニティが人を引き付ける事例は、特に若者を中心に広がりを見せています。もちろん、誰しもがマンション住人とのつながりを持ちたいかと言うと、そうではありません。
だからこそ、意味があります。空室が目立ってきたマンションを住民みんなで生活をつくりあげる空間にリノベーションし、シェアハウスやコレクティブハウス(共同生活のための集合住宅)として再スタートすれば、そういった生活スタイルを望んでいる人の入居が期待できるからです。
万人に受けやすい普通の物件なのに空室が続くなら、思い切ってモデルチェンジしてみるのも有効な対策です。
まとめ
不動産投資は不労所得の1つの方法になります。一般的なサラリーマンとは違って、会社に毎日通勤する必要はありませんので、そういった意味では「不労」ですから、楽をして儲かるイメージがあるかもしれません。
しかし、勘違いしないで欲しいのですが、不動産投資は何もしないで儲かるわけではありません。そのまま放置して儲かるなんてことはないのです。
不動産投資で安定的な収益を得ている人を見ると、何かしらの努力をしています。空室を減らすべく、適切な努力や工夫をしていて、不労という意識を持っていません。「行動しなければ不動産投資の成功はない」というのが、この記事で伝えたかったことです。
空室が増えてきたらそのまま放置するのではなく、この記事にあるような対策から始めてみてください。