不動産投資を始めて疑問に思うことの中でも、特に大きなウェートを占めるのが、賃貸経営に掛かった費用はどこまで経費として落とせるのか?という事です。
確定申告の時期が近づいてくると、「物件を見に行った時に支払ったガソリン代って経費に出来るの?」など、具体的な悩みが浮かんでくる人も多いはず。
当然、個人投資家なのか法人投資家なのか、個人投資家であっても事業規模で賃貸経営をしているのかそうでないのかによって、認められる経費の範囲は変わってきます。
そこで今回は、不動産投資家からの質問の中でも群を抜いて多い「経費として認められる範囲はどこまで?」という疑問について、より身近な個人投資家の事例を使って説明します。
- 不動産投資の節税対策と経費目次
経費として落とせる範囲
不動産投資で経費として認められる項目は、以下の12項目です。
- 減価償却費
- 物件の修繕費
- 銀行からの借入金利息
- 管理費
- 損害保険料
- 租税公課
- 交通費
- 消耗品費
- 接待交際費
- 新聞図書費
- 通信費
- 税理士に依頼した確定申告の費用など
この中でも、「直接経費」と言われる減価償却費や銀行に支払う借入金利子、租税公課(固定資産税)や物件の管理費などは費用として計上できます。
しかし、上記の中でもプライベートで使ったお金と、不動産投資活動に掛かった費用とをどう切り分けるのかが難しい、交通費や通信費などが問題となってきます。
税務署が合理的だと納得する基準は?
不動産投資をしていると、利回り向上のために出来るだけたくさん経費計上をして節税に励みたくなるものです。
しかし、適切な節税を行わずに何でもかんでも経費計上をしていては、節税ではなくただの脱税になってしまいます。
節税ではなく脱税扱いになってしまうと、後で追徴課税されてしまいます。その為にも経費を適切な範囲で計上する事が大切です。
税務署が経費として合理的だと納得する基準が大切なのは分かっていただけたと思いますが、実のところ明確は判断基準がある訳ではありません。
しかし、これまでの経験則上、サラリーマン大家の場合はおおむね30%までで按分するのがポイントとなります。
つまり、按分割合が30%を超えて経費計上していると、税務署から否認される可能性が高くなるということです。
どこまで経費計上して認められるのか?
直接経費ではない経費を、概ね30%の割合で按分するのが安全だとお伝えしましたが、基準がざっくりとしすぎているので、もう少し具体的な事例を交えて説明しましょう。
事務所の家賃
個人投資家の場合、賃貸経営の為の事務所を自宅と兼用している場合も多いのではないでしょうか。実際、筆者自身も自宅を賃貸経営の事務所として使っています。
賃貸経営の事務所を自宅に設定している場合、正確には自宅と事務所を兼用しているのとは違う捉えられ方をします(実態としては明確な境目がなく、兼用状態だとしても)
この場合、自宅の中に事務所スペースがあると見られるのです。そうなると、自宅と事務所を按分する上での合理的な判断基準が必要になります。
この合理的な判断基準の割合として用いられるのが、自宅部分と事務所部分の面積割合で按分する方法です。つまり、自宅の中に事務所スペースを設定し、その面積割合を計算しておく必要があります。
駅前のタワーマンションの3LDKの部屋を家賃22万円で借りていた場合、自宅を賃貸経営の為の事務所として使っているので家賃22万円を丸々費用として計上したいところですが、それは出来ないということです。
通常は部屋の一つを賃貸経営の為の事務所として使っているなどといった感じで設定します。
例えば、このタワーマンションの3LDKの家が75㎡で、そのうち10㎡の部屋1つを事務所として設定した場合、経費として計上できる費用は22万円×10㎡/75㎡=2.93万円までだと考えることになります。
パソコンの購入
不動産の賃貸経営を始めて、管理会社の担当とメールのやり取りや契約書・覚書の作成、エクセルを使った収支計算の為にパソコンが必要になった。このケースではどうなるのでしょうか。
「賃貸経営の為に購入したパソコンだから、当然、購入費用の全額経費に出来るだろう・・・」と思うことでしょう。
ですがこの場合、パソコンの購入費用が10万円を超えるか超えないかで変わってきます。
例えば、購入したパソコンが7万8000円の格安パソコンなら、消耗品費として一括計上できます。
ところが、購入したパソコンが10万円以上になると固定資産として減価償却をすることになるのです。
個人大家の場合、白色申告になるので2通りの償却方法があります。
- 一括償却
- 通常の減価償却
一括の減価償却資産とする場合、法定耐用年数に関わらず3年で償却することが出来ます。18万円のパソコンを購入した場合、毎年6万円ずつ減価償却費として計上していき、3年で償却が終わる形になります。
一方、通常の減価償却を選択した場合は、法定耐用年数で割った金額を毎年計上していくことになります。パソコンの法定耐用年数は4年です。
16万円のパソコンを購入した場合、毎年4万円ずつ減価償却費として計上していき、4年で償却が終了することになります。
自動車の購入費用
保有している賃貸不動産の巡回の為、物件の内覧の為に自動車を買った。この場合の経費計上はどのようになるのでしょう。
この場合もパソコン購入と基本的な考え方は同じです。
車の車体価格は、よほどの格安中古車でもなければ10万円を超えているはずです。ここでは、より分かりやすくする為に240万円の新車を購入したとしましょう。
自動車の法定耐用年数は6年です。240万円の新車は10万円を大きく超えているので、当然ながら消耗品費として一括計上することはできません。
240万円 ÷ 6年(法定耐用年数) = 40万円
この40万円を毎年減価償却費として計上していき、6年で償却を終わらせることになります。
車両購入費を一括計上するには
先ほどの話は新車購入の話だったので、法定耐用年数の期間で均等に減価償却していきました。ですが、一括で車両購入費を償却する方法もあります。それは4年落ち以上の中古車を購入する方法です。なぜ4年落ち以上の中古車なのかと言うと、「法定耐用年数が2年の資産は、1年で一括償却できる」というルールがあるからです。
少し分かりづらいので、具体的な事例をもとに考えてみましょう。
中古車の法定耐用年数を計算するには、まず、新車の法定耐用年数から経過年数を引いた数値を求めます。
6年(新車の法定耐用年数) - 4年(中古車の経過年数) = 2年
さらに中古車の経過年数に20%を掛けた期間を導き出します。
4年 × 20% = 0.8年
この0.8年に2年を足したものが、中古車の法定耐用年数になるのです。
2年 + 0.8年 = 2.8年
つまり、4年落ちの中古車の法定耐用年数は2.8年となります。
この償却法を「簡便法」と言います。
そして、簡便法を用いた場合、小数点以下の償却期間は切り捨ててしまいます。つまり、4年落ちの中古車の法定耐用年数は2.8年から2年になります。
結局、法定耐用年数が2年となるので、最初に説明した「法定耐用年数が2年の資産は、1年で一括償却できる」というルールが適用されるのです。
車両購入費にも按分が必要
法人名義で車両を購入すれば全額を経費として計上できますが、個人大家として購入した場合は按分が必要になります。賃貸経営の為に購入した自動車と言っても、プライベートで利用することもあると見なされるからです。
ただ、自動車の按分割合については、各税務署の担当者によって判断基準がバラバラなのが実情です。
そもそも個人の賃貸経営に自動車なんているのか?という車両購入費の経費計上に否定的な見方をする税務署職員も居れば、平日は仕事をしているはずだから、賃貸経営で利用するのは土日のみのはず決めつけてしまう担当者もいます(実際には仕事から帰ってきた平日の夜中に現地調査で使ったとしても)
このように判断基準はバラバラで明確ではありません。その為、按分割合が適正だと認めてもらう為には、客観的な根拠が必要になります。
例えば、最近はドライブレコーダーなどが購入しやすくなっているので、ドライブレコーダーで移動記録を録画しておきながら、走行距離を記録しておくなども一つの方法です。
有料セミナーの代金
不動産投資の有料セミナーに参加した。当然、賃貸経営の為のセミナーなので経費計上できると考えることでしょう。
ですが、セミナー参加費用が経費として認められるかどうかは、賃貸経営が「事業規模で行われているかどうか」を元に判断されます。
事業規模で行われている賃貸経営であれば、セミナー参加費は経費として認められます。一方、事業規模ではない場合は経費として認められません。
事業規模でない賃貸経営では、経費として認められるのは「直接経費」である管理費や借入利子、減価償却費、固定資産税に限られるからです。
では、事業規模と判断される基準は何でしょうか。
事業規模と判断される基準は、戸建て5棟以上、マンション10室以上の賃貸経営を行っていることが条件になります。
領収書がないケース
「領収書がない、あるいは失くしてしまった・・・」
この場合、経費として計上できないと思い込んでいる人もいるでしょう。
ですが、領収書が無くても領収書の代わりとして使える証明書があります。
証拠書類としての優先順位は、以下のようになります。
- 領収書もしくはレシート
- 請求書
- 納品書
- メール領収書
- 出金伝票
出金伝票は自分で書きおこす物になります。出金伝票を書きおこす際は、必ず以下の内容を記載するようにしましょう。
- 金額
- 取引の日付
- 取引の相手先
- 取引の内容
まとめ
不動産投資で経費として認められる範囲は、物件の保有規模と法人化の有無によって変わってきます。
最初は個人経営の大家からスタートすることになると思います。まずは賃貸経営が事業規模と判断されるところまで、物件の数を増やしましょう。
事業規模と認められれば直接経費以外の経費も認められるようになり、節税対策の選択肢が拡がります。
そして不動産投資の経費では、経費として認められる按分割合をどう決めるかがポイントになります。この部分は税務署によって大きく判断が分かれる所なので、自己判断で済ませずに専門家に相談することも大切です。