引っ越し業者に「どこからどこまでの引っ越しはいくらになりますか」と聞いても、料金は教えてもらえません。荷物量、エレベーターの有無、クレーン作業の要不要など、さまざまな要件で料金が決まるため、下見なしで簡単に答えられるものではないからです。
しかし、実際の下見をして出してもらった見積もり額も、業者によりかなりの差が見られます。そのため、最低でも3社以上の見積もりをとることをおすすめします。
業者により見積もり額がバラバラなのはどうして?
いくつかの引っ越し業者に実際に下見に来てもらっても、その見積もり額はバラバラです。条件は同じなのに、なぜ業者により差が出てしまうのでしょうか?
引っ越し料金に定価はないから
答えは簡単です。形あるものを販売する小売業とは違い、引っ越しは荷物を運ぶ運送業であり、お客様の希望する手伝いをするサービス業でもあります。運ぶ荷物の量も、届け先も、作業してほしい内容も引っ越しごとに違うため、定価はありません。
しかし、単身パックのようなパック制の料金でもない限り、たいていは値引きが行われます。端数を切り捨てたりキリの良い数字にしたりして、「これぐらいではいかかでしょうか」と、値下げした見積もり金額を提示してくれます。
そのようにして出そろった見積もり書の金額は業者間で差があり、最安値から最高値の業者まで、実に2倍程度の開きがあることもあります。「話には聞いていたが、本当にこんなにも違うものなのか」と、実際の数字を見て驚く人も多いです。
サービス内容によるところが大きい
業者間での差が最も出やすいのが、引っ越しプランのサービス内容です。例えば、新築の分譲マンションの引っ越しは、エントランスやエレベーターや通路などに傷ひとつ付けないように、壁や床の徹底した保護が求められます。
プラスチックダンボールや巻きダンボール、シートなどの資材の準備のほか、養生テープで貼り付ける設置や撤去の時間もかかるでしょう。むき出しの家具も傷を付けないように、厚手のキルティングカバーやシートなどでしっかりと保護して運びます。しかし、築年数の古い住居や安い家具では、そこまで徹底した保護は必要ない場合もあります。
また、荷造りや荷解きまですべてを行ってもらうフルパックやおまかせプランと呼ばれるサービスと、荷造りと荷解きを自分で行う標準のプランの料金は当然違ってきます。作業人数も所要時間も業者ごとに異なるでしょう。大型家具や家電だけを運んで設置してもらうプランは、標準プランよりもさらに安くなります。
このように、作業品質の高さ、料金の安さ、ウリにしているサービスなどによって料金は異なってきます。
タイミングも影響する
引っ越し業者は会社組織で社員を雇っている以上、採算を度外視するわけにはいかず、利益を上げることを目的に運営しなければなりません。そのため、年間や半期や1か月、細かく言えばトラック1台ごとの1日の売上目標額を決めているところがほとんどです。
1日の売り上げが目標額に届かなければ、あと一軒の引っ越しを受注するために、思い切った値下げもするでしょう。その業者の内部事情によるタイミングとうまく合えば、引っ越し料金が最安値になる可能性は大いにあります。
大手と地域密着業者でも異なる?
全国的に知名度のある大手の引っ越し業者は、テレビやラジオなどのメディアに広告費をつぎ込んで宣伝している分、「作業品質の高さと引っ越し料金は、比例して高いだろう」と思われがちです。それに比べて中小規模の地域密着業者なら、地元の評判を良くするため、お客様の要望に沿ったサービスを安く柔軟に提供していると言われています。
しかし、長距離の引っ越しになると、全国的に輸送ルートを持っている大手の引っ越し業者のほうが料金は安くなるのが一般的です。このように、業者の強みはそれぞれ異なるので、当然見積もりの料金差があることも納得できるでしょう。
価格交渉しないから
見積もり額にかなりの開きがあると感じるのは、最初に出してもらった見積もり書の金額を比較しているからです。下見してもらって出た最初の見積もり額は、最終的な正しい見積もり額とはいえません。
3社に来てもらえば3とおり、5社に来てもらえば5とおりの見積もり額が出ます。バラつきがある中で最安値を提示した業者に依頼すれば、一番安くお得に引っ越しができることになるでしょうか?答えは「No」です。
引っ越し業者の営業マンは、目の前で電卓を使って計算したり、タブレットで数字を入力したりして見積もり書を作ってくれます。その時に、いくらかの値引き額を差し引いて、安くなった見積もり額を記載してくれたことでしょう。
それで「結構な金額を値引いてもらったからラッキー、良心的なこの業者に決めよう」と思うのは早計です。引っ越し料金を安くできるかどうかは、このあとの「ひと押し=価格交渉」にかかっています。
価格交渉をすると、当初の見積もり額よりも値下げしてくる業者が多いです。つまり、初回の見積もり額がバラバラなのは、後々の値引きを考えたうえでの水増しの料金を上乗せした額を提示しているからです。初回の見積もり額のまま最安値の業者を選んでも、真に安い引っ越しをしたことにはならないといえます。
なぜ最低3社以上の見積もりをとると良いのか
アンケートの回答でも統計でも、対象となる母集団の数が多いほど、より正確な結果が得られます。引っ越し料金の比較でも同様です。高い料金の業者をたまたま3社選んだ場合よりも、幅広く選んだ方が、引っ越し料金の平均額は下がるでしょう。相場がわかれば、価格交渉の材料として活かすことができます。
1社や2社だけでは相場がわからず、値下げも期待できない
1社だけに限定して見積もりを取ってもらうのは、安い料金で引っ越しをすることになりません。よほどその業者のサービス内容が気に入り、「ここでしか扱っていないサービスを使いたい」という気持ちがなければ、おすすめできません。
2社の訪問見積もりを依頼して、どちらか安い方に決めるという場合でも、相手よりも100円でも1円でも安ければ最安値となってしまいます。競争相手が相場よりも高い料金を見積もっていれば、ほんの少し値引いてもらっても、相場以上の料金になってしまうことが十分考えられます。
先入観で決めてない?大手と地域密着業者どちらが良いか
見積もりを依頼するのは、大手と地域密着業者をバランス良く含めた3社以上に来てもらうのがおすすめです。漠然と大手が良いと思っていても、自宅で実際に相対する営業マンの様子を見て、考えを改める人もいます。また、安ければなんでも良いと思っていても、詳しく説明を聞いた後で「やはり不安を感じた」という人もいます。
「大手業者の豊富なオプションサービスを利用したい」と思ったり、逆に「大手は自分には不要なサービスが多いので、柔軟に対応してくれる地域密着業者に依頼しよう」と思ったり、営業マンの話をよく聞くうちに、自分の理想とする引っ越しが見えてくる場合もあります。
先入観で選ぶことはせず、選択肢は多くしたほうが、より良い業者や安く引っ越しできる業者に出会える確率は高くなります。
引っ越しの一括見積もりサイトとは
大手と地域密着業者をバランス良く選ぶ、とは言っても「実際にどこを選んで良いかわからない」という声を聞きます。そんなときは、全国の引っ越し業者が登録する引っ越しの「一括見積もりサイト」という無料サービスの利用を検討してみましょう。
スマホやパソコンで引っ越し希望日や引っ越し前後の大まかな住所を入力し、家財リストにチェックを入れるだけで、対応できる業者が概算の見積もり額を知らせてくれるサービスです。これなら、1社ずつ調べて連絡する手間なく、確実に選ぶことができます。
24時間いつでも利用できますが、夜遅い時間に利用すると深夜に連絡がきてしまうこともあるため、「連絡はメールのみ」や「電話連絡は明日何時以降にお願いします」などと付け足しておくと良いでしょう。
価格交渉ってどんなことをするの?
引っ越しの価格交渉は、「自分の希望する作業内容でどこまで安くできるか」ということが大切です。初回に出してもらった見積もり額がたとえ最安値でも、「ここに頼みたい」と思えなければ切ってしまって構いません。見積もり担当者に「よそに決まった」ことを連絡しましょう。
好感を持った業者や、内容が良かった業者など、どこにするべきか決め兼ねているなら、その候補に残った業者に「迷っている」ことを伝えましょう。
また、本命の業者が1社に絞れたとしても、そのまま依頼しては損をしてしまいます。「そちらにお願いしたいのは山々だが、他が安い料金を提示したため迷っている」ことを伝えれば、まだまだ価格交渉の余地はあります。
このように気持ちを伝えると、多くの場合、当初の見積もり額よりも値下げしてきます。他社の見積もり額を聞いてくることもあるので、正直に伝えて構いません。そこで下手に駆け引きをして極端に安い金額を言ってしまうと、「残念ながらうちではそこまでは引けません」とあっさり撤退されてしまうこともあるため、注意が必要です。
そのようにして2度目に提示された見積もり額は、各社、そんなに開きのない金額になったのではないでしょうか。「初回の見積もり額はいったい何だったの?」というぐらい下げてくる業者もあります。
3度4度と価格交渉をする人もいるようですが、あまりに無理な要求は、作業員の人数を減らされたり、手抜き作業になったりする危険性もあるため、ほどほどにしておきましょう。
まとめ
引っ越し料金は定価がないため、引っ越し業者の最初の言い値で決めてしまっては、確実に損をしてしまいます。引っ越し前は手続きや準備に何かと忙しいですが、できれば3社以上には訪問見積もりを依頼しましょう。その後は、積極的に仕事を取りたい業者が、競争相手の見積もり額よりも値引きをしてくれます。
「安い業者に決める」のではなく、「自分が気に入った業者が安くなるように」うまく交渉してください。
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