限界集落だけでなく都市部でも発生する空き家問題

一昔前の空き家問題といえば都会への人口流出の多い田舎だけの問題でした。しかし、現在の空き家問題は田舎だけに限定されたものではなく、都心をも含む日本全国津々浦々で発生している深刻な社会現象となっています。

これは空き家対策特別措置法による初めての取り壊し物件が、神奈川県横須賀市の空き家だったことからも明白です。

空き家問題が田舎にとどまらず、都心をも含む問題に発展した最大の原因は、近年囁かれる少子化に伴う人口減少が大きく影響してのことですが、原因はそれだけではありません。これは様々な原因が複雑に絡み合った結果と言えるでしょう。

そこで今回は将来的にさらに深刻化することが予測される空き家問題について、詳しく検証していくことにします。今は関係ない問題だと思っている人も、決して他人事ではありません。最後まで目を通して、その原因や問題解決法についてしっかりと理解してください。

山間部や離島などの限界集落とは

空き家問題が取り沙汰される前から人口流出により衰退していく地域は数多くありました。そこで生まれたのが限界集落という新語で、この言葉は空前の好景気と呼ばれたバブル期に発生しています。つまり、日本経済が最も潤っていた時期から、衰退していく地域が出ていることは問題視されていたというわけです。

限界集落の定義は指定集落の人口に占める65歳以上の割合が50%以上の状態を指します。集落に占める高齢者の割合が高くなれば、その分、集落の労働力は減ることになり、その割合が高くなるほど集落機能の維持が難しくなり、維持困難に陥ることになります。

平成27年の調査ではこの限界集落数は全国で15,568集落で、その比率は20.6%を占めています。平成22年の調査では10,091集落の15.5%だったことから確実に増加の一途を辿っていることが見て取れます。その限界集落が多いと言われるのが山間部や離島です。特に四国圏と中国圏に多く、集落維持が困難になっている割合が高くなっています。

移住する際の注意点

そこでこの状況を妥協すべく展開されているのが空き家バンクと呼ばれるサービスで、過疎化により発生した空き家を移住希望者にマッチングすることで過疎化対策く取り組んでいます。この空き家バンクは全国に数百単位で存在し、近年では田舎のスローライフを満喫したいという人も出てきていることから、一応の結果を収めている限界集落も見られます。

しかし、移住する際には単に田舎でゆっくりと過ごしたいという思惑だけでは上手くいかないのが実情で、移住時には下記のような注意すべきポイントをクリアできるかが重要なカギになってきます。

  • 双方の思惑があっているか
  • 教育問題を納得できるか
  • 医療問題を納得できるか
  • 就労先が確保できるか

双方の思惑があっているか

限界集落の解消にはまずは人口確保が先決となってきますが、住んでくれるだけで歓迎されるということではありません。限界集落は人口の高齢化もひとつの問題ですから、移住者には地域の中核となって集落を引っ張って行って欲しいという集落側の思惑があります。

集落の新しい働き手として期待されているわけです。この点を理解しておかねければ自分のペースでくらいしたいがために田舎暮らしを選んだのに、面倒事が増えただけで落ち着いて暮らせないということにもなりかねません。

希望を無視した生活を続ければ周囲の目も厳しいものとなり、過ごしやすい環境にならずできず、移住を取りやめる結果となるケースも少なくありません。移住する際には集落がどのような移住者を求めているのか、移住者は何を求めて移住するのか、この2つの思惑が合致することが第一条件となってきます。

教育問題を納得できるか

限界集落と呼ばれる地域では義務教育が終われば、集落を出て都心部の学校に通わざるを得ないのが実情です。また学校の統廃合が進んでいることから、義務教育期間も通学面で不便さを感じるケースも少なくないでしょう。

もちろん塾等の施設もありませんから、子供を抱える家庭では教育問題をどうクリアするのかが重要な問題となってきます。

医療問題が納得できるか

高齢化の進む限界集落だからこそ医療や介護のサポートが充実されていなければなりませんが、病院があることはほとんどなく、診療所すら存在しないのが実情です。よって急病等の搬送に時間が掛かり、医療サポートを満足に受けられない重大な問題が出てきます。

就労先が確保できるか

限界集落への移住を考えるくらいですから、その大半の人は十分な蓄えがあるか、移住先でも十分な収益を上げられる職を持っているかのどちらかでしょう。しかし、そうでない場合は移住後にどうやって収入を得るかが大きな問題となってきます。

中には遊休地を無料貸出して農業を営んでもらうといった手法を行っている自治体もありますが、移住後にどうやって生活していくかは事前にクリアしておく必要があるでしょう。

限界集落マップ

それでは限界集落にはどのようなところがあるのか、限界集落ベスト3の概要を簡単に紹介していきましょう。

高知県長岡郡 大豊町

高知県長岡町にある町で、四国唯一の限界集落です。2015年時点の総人口は3,962人で、将来人口減少率は全国市区町村中で5番目に多いと予測されています。

しかし、中四国最大級の製材工場である第三セクター「高知おおとよ製材」があり、下記のように名所旧跡があり、滝や山などの多くの自然に囲まれた立地条件です。

  • 杉の大杉(樹齢3000年)
  • 龍王の滝(日本の滝百選に選出)

群馬県甘楽郡 南牧村

南牧村の人口は2015年時点で1,979人、日本一高齢化率が高く老年人口が唯一60%を超える市町村です。大雪災害による孤立状態に何度も遭っていますが、美しい滝が多くその風貌が豊かなことで知られます。

南牧村の名所旧跡は下記のとおりです。

  • 三段の滝
  • 線ヶ滝
  • 象ヶ滝
  • 蝉の渓谷
  • 六車カタクリこみち(10万株のカタクリ群生地)

また大仁田ひとつばな祭りや大日向の火とぼし等の催しも有名です。

福島県大沼郡 金山町

2015年時点の人口は2,189人で、高齢化率が54.8%に達している限界集落ですが、周辺には水力発電施設が点在し、下記のように小中高と教育施設が整備されています。

  • 福島県立川口高等学校
  • 金山町立金山中学校
  • 金山町立横田小学校
  • 金山町立金山小学校

また下記のように多くの温泉があるのも大きな特徴です。

  • 大塩温泉
  • 大塩温泉
  • 大塩炭酸泉
  • 滝沢温泉
  • 玉梨温泉
  • 沼沢温泉
  • 橋立温泉
  • 湯倉温泉

都市部でも発生する空き家問題

冒頭で言ったように空き家問題は田舎の限界集落だけの懸念事項ではありません。空き家問題は都市圏でも深刻化しており、今や日本全土を巻き込んだ深刻な状態になりつつあります。

それでは次はこの空き家問題について解説していきます。

全国で増加している空き家

総務省統計局が5年毎に発表する「住宅・土地の統計調査」では、年々確実に空家が増加しているのは明らかで、特に重要視されているのが都市圏での状況です。

平成25年度の調査では全国820万戸の空き家が確認されましたが、実は下記のように都市圏の4都府県でその約30%を占める約240万戸の空き家が発生しています。

  • 東京都  817,100戸
  • 神奈川県 486,700戸
  • 愛知県  422,000戸
  • 大阪府  678,800戸

つまり、空き家問題は都市圏こそが深刻な問題を抱えている状態だと言えるでしょう。もちろん人口が多い分、人口減少に伴い抱える空き家も多くなるとも言えるのですが、原因はそれだけではありません。

実は現在の住宅建築事情がこの空き家問題に大きく関係しており、空き家問題を深刻化しています。

空き家になる原因

現在は少子化が問題視されているとおり、日本の人口は確実に減少傾向になります。しかし面白いことに人口は減っても、世帯数は年々増加傾向にあります。となれば人口が減っても必要となる居住区は増加するわけですから、空き家問題が深刻化しているというのはおかしな話となってきます。

ではなぜ入居者は増える傾向にあるのに人口の多く、入居需要の多い都市圏で空き家問題が発生しているのでしょう。これは新築住宅の建築事情が大きく影響しています。

下記のデータは国土交通省が発表した「新設住宅着工戸数の推移」と「住宅の滅失戸数の推移」を参考にした数値です。

新築住宅着工戸数 減少戸数
平成21年 775万戸 112万戸
平成22年 819万戸 137万戸
平成23年 841万戸 115万戸
平成24年 893万戸 125万戸
平成25年 987万戸 127万戸

毎年確実に多くの住宅が建築されている一方で、古い住宅が壊される数は少なく、明らかに新築住宅が供給過多となっているのが見て取れます。またその差は大きくこの状況が継続しているので、毎年700万戸から800万戸もの住宅が増えています。これではいくら世帯数が増えたといっても、空室率を下げることはできませんよね。

つまり、現状の空き家問題を引き起こしている原因は、減ることなく年々新しく新築される建築事情が引き起こしていると考えられます。

空き家の問題点

そもそも空き家が増加することがなぜ問題となるのか、これにはまず下記のような近隣への影響が挙げられます。

  • 住宅の老朽化 住宅は人が住まないと老朽化が早い
  • 景観の悪化 雑草の繁茂等
  • 防犯上の不安 不法侵入や不法投棄の温床となる
  • 防災上の不安 屋根、瓦、壁等の損壊による崩落等

しかし、空き家が問題とされるのはこれだけではありません。自治体財政に与える影響も大きくなってきます。人が住むことによってその自治体は税収が得られるので、空き家率が大きくなればなるほど確実に税収は減益し、最終的には自治体財政破綻という結果を招くことにもなりかねません。

近年記憶にある財政破綻した夕張市の空き家率は33%で、明海大学不動産学部教授の齋藤広子さんは空き家率が30%を超えると自治体は財政破綻すると提言しています。

また現状の空き家問題に明確な対策が取られない場合、2033年には日本全体の空き家率は30%を超えるとの予測があることから、この説を信じるとすれば自治体どころか国自体が財政破綻するリスクを孕んでいます。となれば空き家問題解消がいかに重要な懸念事項であるかを理解してもらえるでしょう。

空き家問題を解決する取り組み

それではこの深刻な空き家問題解消のためにどのような取り組みがされているのでしょう。まずは入居率を高めるという点では、民間団体や自治体、第三セクターによる下記のような取り組みが挙げられます。

  • 空き家バンク
  • 空き家管理サービス
  • 住みかえ支援機構の機構住みかえ支援ローン
  • 空き家の管理、活用に関する情報提供

しかし、国においては空き家対策特別措置法の施行による、下記のような管理是正のみに限定されています。

  • 特定空家等の指定による住宅の早急改善
  • 特定空家等の指定による住宅の解体

以上のように現状では今回説明した空き家問題を根本的に解決するための新築建築数への対応策が講じられていません。現状で全く何の策も講じられていないとは言いませんが、大きな効果が期待できる策は講じられていないのが実情です。

国の財政破綻を招かないためにも、国主導による大きな効果が期待できる政策に期待したいところですね。

まとめ

今回解説したように空き家問題は限界集落だけでなく、都市部でも深刻な問題となっています。空き家が増加する原因は全く違っているため、単に入居者を確保できれば解決できるという問題ではありません。

限界集落の場合には移住者確保による政策が必要となり、都市部の場合には住宅の供給過多を解消する政策が必要となってきます。

ともに行政主導となる決定的な政策が必要なのは言うまでもありません。しかし、特に十分な人口が確保できているのに空き家問題が発生している都市部においては、毎年減ることなく増加している住宅建設を抑制するための、行政による何らかの規制が必要となってくるでしょう。

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