住宅ローンを借り入れする時の疾病特約などの必要性は?

住宅ローンを借り入れする時の疾病特約などの必要性は?

住宅ローンを借りるため銀行に相談に行くと、窓口で商品説明と共に保険に入ることを勧められます。

この保険は団信(団体信用生命保険)と呼ばれ、通常住宅ローンとセットで付いてくるので、ローン利用者は基本的に加入を拒むことができません。

また最近は、保険の拡充で疾病特約というものが付加されたものが増えてきています。

そこで、今回は「疾病特約って本当に必要 ?」という視点から、住宅ローンで団信や疾病特約を付ける背景やその必要性の可否などを、皆さんが加入している生命保険、医療保険などと比較しながら、その疑問に答えていきたいと思います。

疾病特約とは

銀行員がローン予定者に保険を説明する時、「この保険は団信(団体信用生命保険)といって、住宅ローン利用者が返済途中に死亡等で突然支払いができなくなっても、この保険からローン残金が全額支払われるので、家族が返済する義務もなく安心ですよ」と説得されます。

たしかに保険でローンの残金が相殺され、残された家族が自宅にそのまま住み続けることができると説明されれば、保険の必要性を感じます。

さらに、その団信の保険料が民間金融機関の場合、銀行が払ってくれて無料だと聞かされれば、「それなら加入しよう」と考えるのは当然です。

さらに最近は団信をベースにして、色々な疾病に対応した特約も付けられる保険が登場してきているので、行員としてはできる限り、疾病特約付きの団信を勧めようとします。ただしここで問題が発生します。

基本となる団信で仮に保険料が無料でも、疾病特約付きとなるとその部分について保険料が有料(本人負担)となってくることが多くなります。有料となると、毎月のローン返済に加えてその保険料も払う必要が出てくるので、ここは慎重に判断しなければなりません。

保障の範囲について

団信(団体信用生命保険)は、本人がローン返済中に死亡や失明等の高度障害に罹り返済不能になった時、その保険からローン残金が返済されるという機能については上で解説した通りです。

そこで、この団信に付加された疾病特約ではどのような保障があるのか、その範囲について解説します。

疾病の種類

疾病特約となっていますが、現在多くの金融機関で取り扱われている疾病の範囲には幅があり、確認できるだけでも「がん」、「3大疾病」、「7大疾病」、「8大疾病」、「9大疾病」、「11大疾病」とさまざまです。

そこでまず、現在の疾病特約の主流である「3大疾病」、「7大疾病」をメインに、保障対象となる7大疾病を一覧表にしました。

3大疾病
悪性新生物(がん) 脳卒中 急性心筋梗塞
4大生活習慣病
高血圧性疾患 糖尿病 慢性腎不全 肝硬変

8大疾病特約を採用している金融機関の場合、これら7大疾病に加えて「慢性膵炎」、9大疾病はさらに「ウィルス肝炎」、11大疾病には「大動脈瘤および乖離」、「皮膚の悪性黒色腫以外の皮膚がん」等がその項目に追加されています。

このように、非常に広範囲の病気に対応しているのが、現在の疾病特約の特徴です。

疾病特約が適用される条件

多くの病気に対応しているのが疾病特約付き団信ですが、それではこれらの疾病にかかると、すぐに保険が適用されてローン残高がゼロになるのでしょうか ?
実はすぐには適用されません。

一般的に疾病の状態になり、一定の条件が満たされないと保険が下りない仕組みになっています。そこで疾病特約付き団信に加入予定の人はこの条件を十分チェックしておく必要があります。

金融機関によってその適用条件はさまざまですが、大きく整理すると以下のような3タイプに分かれています。(金融機関によって待機期間や入院期間等の要件は異なります)

3大疾病のうち、がんと診断された場合

当初借入実行日を起算日に、即日~待機期間3ケ月経過を条件に、保険でローン残金をゼロに

3大疾病のうち、脳卒中、急性心筋梗塞を発症・診断

当初借入実行日を起算日に、待機期間1ケ月~3ケ月+入院を条件に、保険でローン残金をゼロに

4大生活習慣病を発症・診断

当初借入実行日を起算日に待機期間1ケ月~3ケ月+入院を条件に

  • ①そのまま就業不能状態が継続すれば、最長12ケ月のローン返済を保険から保障
  • ②さらに1年超えても就業不能状態のままなら、保険でローン残金をゼロに

このように疾病特約において、実際保険が適用されるには色々な条件を満たす必要があり、かつ「就業不能状態」というのも金融機関によって定義はさまざまなので、保険加入前に納得いくまで金融機関に質問して加入を検討する必要があるといえます。

団信(団体信用生命保険)とは

ここであらためて、団体信用生命保険の仕組みについて簡単に解説します。

団信の仕組み

団体信用生命保険、略して団信とは、住宅ローンを取り扱う銀行等が保険契約者、保険金の受取人となり、ローン利用者本人が被保険者となる契約で、返済中に死亡、高度障害等の理由で返済ができなくなると、保険からローン残金が支払われる仕組みになっています。

銀行がローン利用者をまとめて団体として幹事保険会社を通じて保険を掛けるので、個人が個別で保険を掛けるより保険料が割安になりますが、この保険は受取人が被保険者でなく銀行である点です。

そのため、たしかにローン契約者もまさかのときに保険からローン残金が支払われるので安心ですが、銀行にとってもローン対象の住宅を売却してローン残金を回収するより、保険金からローンを回収できる方が時間も手間もかからないので大きなメリットがあります。

疾病特約付き団信の場合も、また同じ考えの下に作られていることを利用者は知っておく必要があります。団信や疾病特約のメリットは決して利用者だけのためにあるのではないのです。

フラット35と疾病特約

住宅ローンを取扱いしているのは銀行等、民間金融機関だけでなく、政府出資の独立行政法人、住宅金融支援機構があります。その住宅金融支援機構の取扱いしている代表的な住宅ローンがフラット35です。

ただし住宅金融支援機構は直接住宅ローンを販売しているのでなく、全国の各金融機関と提携して銀行等が代理店としてフラット35を販売しています。

銀行等でフラット35が契約されると、銀行はその住宅債権をすぐに住宅金融支援機構に販売するので、以降の管理は機構が行う仕組みです。

最長35年間の返済期間、全期間固定金利であるのがフラット35の特徴ですが、保険に関しても民間金融機関同様、団信や疾病特約付き団信があります。ただ銀行と機構では保険料の取り扱いや支払い方法に大きな違いがあります。

銀行では団信に係る保険料は、銀行自身が保険会社に支払うため顧客は無料である一方、保険加入が必須となっています。また疾病特約付き団信の場合、特約の付加は任意であり、銀行では付加保険料をローン利用者が負担することが原則です。

一方フラット35の場合、団信および疾病特約付き団信ともに保険料は金利とは別途顧客負担となっていますが、加入は「任意」となっているのが特徴です。つまり2017年8月現在はフラット35の保険は入っても入らなくてもよく、加入の是非は顧客が判断していいという取扱いになっています。

この取り扱いは2017年10月1日より改正され、新たにフラット35と団信保険または3大疾病特約付き団信がセットされた商品が登場します。しかし、団信および3大疾病特約付き団信加入は、以前と変わらず顧客が判断でき、「任意」となります。

改正骨子は、もしフラット35契約と同時に団信もしくは3大疾病特約付き団信に加入すると

  • 保険の保障範囲が広がる
  • 保険料が、それまでの年1回別払いだったものが、今後は毎月の返済額に金利と共に組み込まれ引き落としされる
  • その結果、団信保険料の水準は改正前より若干下がるが、金利に含まれることでローン金利そのものは上がる

ということになります。

保険料の料金相場

前章の保険の知識を元に、一体どれくらいの保険料が必要なのか、金融機関毎に一覧表にしてみました。金融機関によって対応にばらつきがあるのであくまで目安に留めて下さい。

都銀・地銀等 ネット銀行 住宅金融支援機構

(フラット35)

一般団信 保険料無料

(銀行負担・加入必須)

保険料無料

(銀行負担・加入必須)

0.3%以上

(本人負担、加入任意)

疾病特約付き団信 0.2~0.3%

(本人負担、加入任意)

保険料無料

(銀行負担・加入必須)

0.3%以上

(本人負担、加入任意)

表への捕捉事項

上記の表では、近年サービスの向上が目覚ましいネット銀行を、あえて都地銀等の一般銀行と分けて保険比較しましたが、ネット銀行では疾病特約付き団信も保険料無料となっているので、保険の加入は実質必須となっています。(加入を拒めば住宅ローンの審査も通りません)

またフラット35で住宅ローンを組む場合、保険は一般団信、疾病特約付き団信とも保険加入は基本的に任意となっていますが、フラット35 を取扱いしている銀行によっては一般団信加入を必須にしている銀行もあります。

負担の保険料(年率)を具体的な金額に直してみると

それでは、さらに保険料の自己負担分を病特約付き団信の場合、いくら支払う必要があるか、具体的な金額を出してみます。

住宅ローン借入額3,000万円、金利年1.0%、返済期間35年、疾病特約保険料本人負担分0.3%、元利金均等返済方式(他の諸費用は省略)と仮定した場合は下記のようになります。

  • ①一般団信のみ(保険料無料) 総支払額 35,567,804円、 毎月返済額 84,685円
  • ②疾病特約付き団信(保険料本人負担) 総支払額 37,356,564円、 毎月返済額 88,944円

計算の結果、最終までの総支払額で1,788,760円、毎月返済額で4,259円の差が出ました。0.3%と、金利で見たらわずかの差に思える自己負担分が、金額に直すと以外にもかなりの負担になることがわかります。

これはフラット35の場合でも、保険加入が任意とはいえ入れば確実に負担が増えることを意味します。いくら現状、住宅ローン金利が年0.5%~1.8%程度で借りられるとしても、これが安易に判断して疾病特約付き団信まで加入するべきでないという理由です。

疾病特約付き団信を判断する時には、自分がすでに加入済みの医療保険等の保障とのバランスを考えて、余分な保険料を払い込むか、一般保険でカバーできる範囲の保障の重複を極力避けなければなりません。

疾病特約などの必要性は?

昔は終身保険、定期保険のような目的が限られた保険しかありませんでしたが、現在は医療保険など、疾病別に特化した保険が充実してきています。

それだけに必ずしも、ただ銀行員の勧めるままに疾病特約付き団信に入るのがいいというわけでなく、自分の健康リスクを十分踏まえた上で、意思決定すべきだと思います。

例えば、以下のようなことが挙げられます。

  • 将来病気になる可能性はあるか
  • 遺伝的にがんになりやすくないか
  • 親が糖尿病でないか
  • 建設業など危険度の高い仕事でないか
  • 営業職などストレスが多く、病気を誘発し易い仕事でないか

もちろん、疾病特約付き団信保険のメリットはいざその疾患にかかった場合、本人に大いに役立つことは間違いありません。給与等返済財源に余裕があるのなら、仮に任意加入という条件でも疾病特約付き団信に入っていてもいいと思います。

しかし返済財源や貯蓄に余裕がない、あるいは一般の医療保険でその範囲の病気がカバーできるのなら、必ずしも疾病特約付き団信の加入が必要というわけでもありません。

さらに疾病特約付き団信の機能は、あくまで住宅ローン契約とセットになっているだけに、完済で住宅ローン契約がなくなれば疾病特約付き団信の保険機能も失われます。

一方、一般の保険ならば、住宅ローンと関係なくその保険期間中保障が有効なので、むしろ住宅ローンの残高が減る高齢になってから病気にもなりやすいことを考えると、その一般保険が活きてくる可能性も高くなります。

それだけに「疾病特約などの必要性は?」と問われれば、その加入のメリット・デメットと共に一般の保険の比較の中で、人それぞれに結論は異なってくると思います。

慌てて疾病特約の契約をした後で、後悔しないよう十分に注意して判断しましょう。


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