住宅ローンは何千万円もの高額借入となるため、いかに支払う利息を抑えるかが賢い住宅ローン利用法となってきます。
そこで注目してもらいたいのが繰り上げ返済。この繰り上げ返済こそが最終的に支払う利息を最も効果的に減額する方法となってくるのです。通常の返済には利息分が含まれていますが、繰り上げ返済の場合には返済額すべてが元金返済へと回されます。
これによって元金を大きく減らし、支払う利息を軽減できます。しかし、一口に繰り上げ返済といっても、考えなしに行ったのでは期待以上の成果を上げることはできません。
そこで今回は繰り上げ返済の効果を再確認しながら、その方法や最も有効なタイミング等、重要なポイントを詳しく説明していくことにします。
2種類の繰り上げ返済方法
繰り上げ返済は元金返済を進めて、支払う利息を軽減することが基本的な目的です。そこで注目してもらいたいのが繰り上げ返済方法。現在は下記の2つがあり、利息軽減とは違う目的に応じて選択できるようになっています。
- 期間短縮型
- 返済額軽減型
それではこの2つの繰り上げ返済方法の特徴を見ていきながら、どんなメリット・デメリットがあるのかを検証していきましょう。
期間短縮型とは?
期間短縮型の特徴はその名のとおり、繰上げ返済を行うことで返済期間を短縮できる点です。返済をすべて元金返済に充てられるので元金返済が進み、返済期間が短縮できます。よって期間短縮型は返済期間を短縮したいという人に向けた繰り上げ返済方法となります。
ですが毎月の返済額は以前と同額なため、毎月の返済額を軽減したいという人には向かない繰り上げ返済方法となっています。
それでは期間短縮型にはどのようなメリット・デメリットがあるのかを見ていきましょう。
期間短縮型のメリット
期間短縮型のメリットは利息軽減効果が大きいという点です。あとで説明する返済額軽減型と比較しても下記のように軽減効果は確実に大きくなってきます。
(借入額3,000万円、金利1.5%、返済期間30年で借入後3年目に200万円返済した場合)
- 期間短縮型 利息軽減額1,072,199円
- 返済額軽減型 利息軽減額464,791円
また期間短縮型の利息軽減効果は繰り上げ返済額が多ければ多いほど大きな効果をもたらすのは言うまでもありませんが、注目すべきは借入残高が多ければ多いほど大きな効果をもたらす点です。
それでは実際に先程と同様の借入条件で200万円の返済を行った場合、利息軽減額がどうなるかをシミュレーションしてみましょう。
- 借入後3ヶ月後に200万円返済した場合 利息軽減額1,072,199円
- 借入後1年後に200万円返済した場合 利息軽減額1,034,735円
- 借入後10年後に200万円返済した場合 利息軽減額618,888円
- 借入後15年後に200万円返済した場合 利息軽減額432,491円
- 借入後20年後に200万円返済した場合 利息軽減額292,863円
よって、将来を見据えて返済期間短縮を目的に期間短縮型を利用するのであれば、利息軽減効果が大きくなる早期実施がおすすめとなってきます。
期間短縮型のデメリット
期間短縮型のデメリットといえば何といっても、繰り上げ返済しても毎月の返済額が変わらないという点でしょう。しかし、しっかりと理解しておかなければならないデメリットは他にあります。
それは期間短縮型で多額の繰り上げ返済をした場合、将来的に低金利のローンが登場しても乗り換えにくくなる可能性があるという点です。
「なんで?」と思う人も多いでしょうが、期間短縮型は繰り上げ返済することで返済期間の短縮ができます。よって30年のローンを組んでいても金額さえ許せば5年、10年と返済期間を短縮できます。実はこの返済期間の短縮が乗り換えローンの審査で不利となるケースも考えられるのです。
3,000万円の住宅ローンを組んでいて、ローンが残り20ヶ月の段階で期間短縮型で5ヶ月分の繰り上げ返済をしたとしましょう。この時点でローン残は15ヶ月、ローン残金は1,800万円まで返済は進んでいます。
これを下記の条件で乗り換え検討すると、毎月の返済額は107,729円となります。実はこの新しい返済額が問題なのです。
- 返済期間 15年
- 固定金利 1.0%
- ボーナス払い なし
*融資手数料や保証料等の諸費用は計算に含んでいません
借り換えローンは任意でローン回数が決められると持っている人も多いでしょうが、実は現状ローンの残回数が上限となるのです。よって、このケースの場合は15年が返済期間の上限となります。
毎月の返済額は返済期間が長いほど軽減されますが、返済期間が短い場合は毎月の返済額は大きくなってしまいます。住宅ローンは大幅に返済が進んでいてもローン残金は高額となり1,000万円を超えるケースがほとんどです。
よって、新たに組む借り換えローンの返済額が高額になった場合、月収に対するローン負担率が大きくなり過ぎ、ローン審査に通らない可能性も出てきます。年齢にもよりますが家族構成によってはいくつものローンを組んでいる可能性も考えられます。となれば尚更その可能性は高くなってきます。
賢い返済方法とも言われる繰り上げ返済をしたした結果が、残念ではありますがこのようなデメリットを生み出すことにもなることをよく理解しておきましょう。
返済額軽減型とは?
返済額軽減型の特徴は繰上げ返済を行うことで毎月の返済額を軽減できる点です。よって返済額軽減型は毎月の返済額を軽減したいという人に向けた繰り上げ返済方法となります。
ですが返済期間は以前と同じため、返済期間を短縮したいという人には向かない繰り上げ返済方法となっています。
それでは期間短縮型にはどのようなメリット・デメリットがあるのかを見ていきましょう。
返済額軽減型のメリット
期間短縮型のメリットは期間短縮とならないため、先程説明した将来的な借り換えに支障が出ない点が挙げられますが、やはり最大のメリットは最大の特徴でもある毎月の返済額を軽減できる点でしょう。
返済額軽減型で繰上げ返済を大多数は、毎月の返済額をどうにかしておきたいと考える人で占められます。現在は余裕があるが、将来発生するであろう教育費等の出費に備えて、余裕のあるうちに対策を立てておこうというわけです。
返済額軽減型による返済額の軽減効果は下記のとおりです。
(借入額3,000万円、金利1.5%、返済期間30年で借入後11年目に200万円返済した場合)
- 繰り上げ返済前103,536円
- 繰り上げ返済後93,672円
- 軽減額9,864円
- 利息軽減額307,954円
(借入額3,000万円、金利1.5%、返済期間30年で借入後11年目に400万円返済した場合)
- 繰り上げ返済前103,536円
- 繰り上げ返済後83,809円
- 軽減額19,727円
- 利息軽減額615,940円
軽減効果は繰り上げ返済額が大きければ大きいほど、大きな効果が上がります。家計に余裕がなくなってからでは十分な効果が得られる繰り上げ返済はできません。将来的なキャッシュフローをしっかりと安定させたいのであれば、余裕があるうちに早めの繰り上げ返済をおすすめします。
返済額軽減型のデメリット
返済額軽減型のデメリットは繰り上げ返済の一番の目的とも言われる支払利息の軽減効果が期間短縮型に比べ小さい点です。これは期間短縮型のメリットでも比較したとおり、下記のように大きな差額が出ています。
(借入額3,000万円、金利1.5%、返済期間30年で借入後3年目に200万円返済した場合)
- 期間短縮型 利息軽減額1,072,199円
- 返済額軽減型 利息軽減額464,791円
家計のキャッシュフローを安定させる効果は発揮しますが、支払利息の軽減効果は上記差額が示すとおり大きな成果は期待できないと理解しておきましょう。
繰り上げ返済の手数料やタイミング
それでは2つの繰り上げ返済方法の効果を理解したところで、次は繰り上げ返済の手数料やタイミングについて説明します。
手数料の相場
「なんで?」と文句を言いたくなりそうですが、実は繰り上げ返済を行うには手数料が発生します。
依頼された金融機関は本来なら得られるはずだった利息を放棄しなければならないだけでなく、変更後の返済額等の各種計算や、契約書の作成などにかかる時間と労力を費やすと考えれば当たり前の話でしょう。
しかし、これはあくまでも全額返済の場合のみで、一部返済の場合には手数料無料なのが一般的です。
これは繰り上げ返済の手続きがインターネット上で行えるようになったことが大きく影響しています。手続にかかる面倒な処理をコンピュータ化することで手数料ゼロとなったわけです。
ですがこれはあくまでも繰り上げ返済の申し込みをインターネットで行えるシステムを持っているところに限ります。地方銀行や信用金庫等では未だに店頭窓口でないと申し込みできないところも少なくありません。
その場合には5千円~3万円程度の手数料が発生してきます。住宅ローンの申し込み時には繰り上げ返済を見越して手数料がかからないことを選択条件としておくのもおすすめかもしれません。
繰り上げ返済のタイミング
繰り上げ返済はいつ行っても同じ効果を発揮するわけではありません。利息軽減という繰り上げ返済の最大の目的達成のためには、できるだけ早い返済が原則となってきます。
よって、ある程度の貯蓄ができたならば、繰り上げ返済に回すのが得策となってきます。しかし、いつ行ってもいいというわけではありません。繰り上げ返済は契約者のメリットを追求して行う手段です。
ですからデメリットが生じる時期だけは避けなくてはなりません。その時期こそが年末です。
年末はボーナス収入によりまとまった金額が手に入りますが、住宅ローン控除をめいっぱい利用するのであればすぐに返済するのではなく、年が明けてから返済することをおすすめします。
住宅ローン控除は年末の住宅ローン残高の1%が控除額となります。よって、年末に繰上げ返済を行うと返済分だけ控除対象額が減ってしまいます。
現在、住宅ローン控除は15年間という長期にわたって使えるケースもあり、その時期やタイミングなどで控除額割合が1%よりも少なくなることがあります。あまりにこの割合が少なくなってしまうと、必ずしも住宅ローン控除にこだわる必要はありませんが、基本的には年末の繰り上げ返済は避ける方がいいと覚えておきましょう。