人が住む建物は、その全てに修繕が必要です。特に震災以降は、修繕に加えて街全体の防災体制の整備や個々の建物の防災設計にも注目が集まるようになってきました。
マンションや高層建築の多い東京では、東京都市整備局が平成25年「マンション実態調査結果」を公表しています。これを見てみると、修繕と防災についてどのような取り組みがなされているのかを知る事ができます。
マンションなど多数の人間が一同に会する場は、みんなの意見を取り入れたり、なにかを決定する時の手順が複雑になりします。
そこで、先人達が経験した失敗や事件から、今後マンションの大規模修繕や防災対策についての計画や資金ぐりを学びましょう。
都内の大規模修繕資金計画
東京都整備局が公表している「マンション実態調査結果」のをみると、94.5%のマンションに修繕費の積み立てがあります。
93.5%に管理組合があり、96.8%に管理費があります。修繕積立金は、おおよそ1万円から1万4千円前後です。大規模修繕にともなう、長期修繕計画の作成状況も85.9%のマンションでなされています。
このように、現在都内にあるマンションでは、大規模修繕に向けての準備が着々と進んでいるのです。
大規模修繕にかかる費用の中身
大規模修繕は、通常の修繕と異なり工事費の他に工事監理費(建築士が行うもの)設計費、調査診断費などが必要です。通常、これらの費用は、修繕積立金会計から支出されます。
修繕積立金会計は、年度毎の収支予算決算として総会決議事項です。事業計画をたてるために、この予算化は必須の要件です。
工事費の見積もりは、実施設計が出来上がった段階でわかるので、長期修繕計画で作成された工事費と乖離していないかを確認します。
ただし、修繕工事では、工事が終わってから確定して清算する項目も多く、工事の追加なども考慮し工費の全体の2割程度を予備費として準備しておく必要もあります。
修繕費にまつわるトラブルは、修繕費の積立金額が工事費と乖離してしまうことと、修繕費の横領事件が生じることです。
前述したように、ほぼ全てのマンションが修繕積み立てをしており、建築物の必然性として大規模修繕が必要であることから、マンションに住んでいる以上修繕費にまつわるトラブルは、他人事ではないのです。
資金が足りない場合はどうする?
積立金の不足は、物価の変動リスクや積立金未収などからおこります。
平成20年に行われたマンション総合調査では、約60%のマンションが修繕積立金だけで修繕を終えています。しかし、約3%が一時金徴収を行い、10%が金融機関からの借入れを行っています。
もしも、大規模修繕資金不足に陥ってしまったら、主に次の2つの手段をとり解決します。3つめは、付加的に利用できるものなので合わせてご紹介します。
1:区分所有者から一時金徴収
一時金徴収は、足りない分を平等に住人(区分所有者)で負担するものです。
必要性が理解されれば反対が出ることはありませんが、中古物件を修繕直前に購入した場合等は、新築で購入した住人とくらべると納得がいかないという意見がでるケースもあります。
中古物件を購入する際は、大規模修繕済みかどうか確認するとよいのは一時金徴収トラブルを防ぐためです。
2:金融機関からの借入
住宅金融支援機構や民間金融機関には、借入れができる管理組合の条件や修繕積み立ての額を設定してはいるものの、大規模修繕用のプランがあります。
基準を満たしているかの精査が必要なので、事前に協議が必要ですが、無担保で連帯保証が必要無いプランがほとんどです。
3:地方公共団体の補助金制度
東京都や千葉県等、地方公共団体にマンション共用部工事の助成制度を利用できることがあります。
分譲マンションの改修や管理に関するアドバイザー派遣などもあり、耐震診断や耐震改修まで含めると多くの地方公共団体がマンションのメンテナンスをサポートしているといえます。
修繕費横領に多いパターン
修繕積立金は、額が大きく長い間皆の意識から外れているという性格から、使い込みが発覚する事件は今現在も後を絶ちません。最も多い修繕費の横領事例を2つ紹介します。
1:フロントマンが横領
管理会社が派遣していたフロントマンが、理事長をだまし、口座を新設していました。この口座に組合の資金を移し、無断で7,000万円を引き出していました。
2:管理組合の理事長が着服
理事長は、知り合いの会社に大規模修繕工事の工事費を2倍に水増しして約3,000万円で発注しました。このケースでは、理事長を背任容疑で逮捕しています。
大規模なマンションは、その一つが村のような規模です。当然、大規模修繕費用も大きな額となり、背任、着服、横領といったリスクと切っても切れない関係です。
管理会社に委託していた場合、盗まれた金額の一部を返すという申し出もあると思いますが、犯罪として立件するためには、一部であっても戻してもらう事は控えましょう。
マンションが大規模になればなるほど、区分所有者の管理に対する意識は薄いです。そこにつけ込まれないよう、管理組合がリスクに対する危機意識を持ち、予防策を講じましょう。
外部専門家を活用する国の対策
修繕費や管理にまつわるトラブルについては、国交省が一つの解決策を提案しています。
現在、多くのマンションでは管理組合があり、その組合は、国土交通省による「マンション標準管理規約」を参考に運営されています。しかし、区分所有者の高齢化や賃貸物件の増加などで管理組合のメンバー集めに苦慮したり、理事会が機能しなくなったりする状況が発生しています。
そでこ、外部の専門家を活用し、第三者管理が検討されることになります。外部の専門家は、マンション管理士・会計士・建築士・弁護士などが想定されており、大規模修繕や耐震改修等の個別具体的な対応をできると期待されています。
トラブルを全てなくすことは不可能ですが、トラブルを防ぐ仕組みを考える作業をやめなければ、大きな事件になるまえに気づくことができるかもしれません。マンションでは、住戸以外にあまり関心が向かない傾向がありますが、無関心は、犯罪を呼び込んでしまいます。
マンションの維持管理を良い循環でまわせるかは、一人一人の意識にかかっているといっても過言ではありません。