家は、住んでみなければ気がつかないことや分からないことがたくさんあります。人は、家に住みますが、その家は、住んでいる人が自分で設計図をひき、自分で組み立て、自分で仕上げたわけではありません。
家に住み始める前に、作った人から説明を受けても、やはり、そこには「聞いていなかった」「知らなかった」というような「隠れた瑕疵」が存在するのです。そこで、隠れた瑕疵について今までに起こったトラブル(裁判例)から、住宅の瑕疵について学んでみましょう。
住宅の瑕疵、隠れた欠陥の姿をしれば、いつまでに誰にどんな責任を追及できるのか、どのように補修してもらえるのかについての地図が描けることでしょう。
建物を建て人の責任は?
建物を建てた側は、「住宅の品質確保の促進等に関する法律(いわゆる品確法)や民法で規定されている契約上の責任を負っています。
ですから、建物を買ったり、注文したりした場合にあとから住宅の瑕疵があるとわかった場合でも、売り主や請負人にたいして、責任を追及することができます。
そうはいっても、実際に家を建てたのは、孫請け会社だという場合も少なくありません。そんな場合でも、民法では、不法行為責任をもって責任追及します。
契約関係のない相手方というのは、不動産関連の紛争ではめずらしくありませんから順序だてて考えて行けば、責任の所在パズルを紐解くことができます。
しかし、一番大きな問題は、「瑕疵」とはどんなもので本当に「瑕疵」なのか?ということです。不法行為責任の場合は、この「瑕疵」+「相手の故意、過失」を立証する必要があるので、相手に責任を認めさせるには、頭脳対頭脳の戦いになります。
さらに、建築物にどの程度瑕疵があった場合不法行為責任を追及できるのかについては、はっきりしていない状態がありました。しかし、近年では、判決が指針を示してくれているので、これらの判例からある程度目星をつけることが可能です。
住宅瑕疵の判例
「最高裁第二小法廷平成19年7月6日」とこの判決の下級審である「福岡高等裁判所平成11年10月28日」判決をみてみましょう。この事案の概要をざっと説明します。
という事例です。
事実審である福岡高裁では、建物の瑕疵について請負人に不法行為責任を追及できる要件を限定しています。
判決は、
「建物に瑕疵を生じさせたことが、請負人の故意による場合や、あるいは過失による場合であっても、その瑕疵が住居者の健康に重大な影響を及ぼすものである等、当該瑕疵を生じさせたことの反社会性ないし反倫理性が強い場合」
に不法行為による責任を追及できるとしています。一方、平成19年7月6日の最高裁では、
「建物は、そこに居住する者、そこで働く者そこを訪問する者等の様々な者によって利用されるとともに、当該建物の周辺には他の建物や道路等が存在しているから、建物は、これらの建物利用者や隣人、通行人等(以下合わせて「居住者等」という。)の生命、身体又は財産を危険にさらすことがないような安全性を備えていなければならず、このような安全性は、建物としての基本的な安全性というべきである」
とし、
「建物の建築に携わる設計者、施工者および工事監理者(以下併せて「設計・施工者等」という)は、建物の建築に当たり、契約関係に無い居住者等に対する関係でも、当該建物に建物としての基本的な安産性が掛ける事がないように配慮すべき注意義務を負うと会するのが相当である。そして、設計・施工者等がこの義務を怠たったために建築された建物に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵があり、それにより居住者等の生命、身体または財産が侵害された場合には、設計・施工者等は、不法行為の成立を主張する者が上記瑕疵の存在を知りながらこれを前提として当該建物を買い受けていたなどの特段の事情が無い限り、これによって生じた損害に就いて不法行為による賠償責任を負うというべきである。」
としました。
ほかに、「基本的安全性」を損なっていること「生命、身体又は財産を危険にさらす」ような場合には、不法行為責任をおうべきものと判断し福岡高裁の判決を否定しました。
この判決は、一見分かりづらいかもしれません。なぜなら、建築物には、建築基準法令があり、全ての建物は本来これに違反しないように設計され施工されているはずだからです。
建築基準法では、「国民の生命、健康および財産の保護を図る」ために「建築物の敷地、構造、設備および用途に関する最低の基準」を定めています。
つまり、建築基準法の基準を下回る建物は、「居住者等の生命、身体または財産を危険にさらす」ことになり判決でいわれている基本的安産性を損なっていることになるのです。
最高裁判決では、さらに具体例を示してくれています。
「例えば、バルコニーの手すりの瑕疵であっても、これにより住居者等が通常の使用をしている際に転落するという、生命または身体を危険にさらすような者もあり得るのであり、そのような瑕疵があればその建物には建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵があるというべき」
と言及しています。
建築基準法令には、バルコニーの手すりにかんする具体的な規定はありませんし、本件事案の建物は、鉄骨造スレート葺三階建てなのでこの規定は適用されません。
最高裁は、このように建築基準法令に具体的に規定されていない場合でも、「生命または身体を危険にさらす」場合は、基本的安全性を損なっている者として不法行為が成立しうると明らかにしているのです。
つまり、建築基準法令違反よりも広く建物の安全性に関する不法行為の成立をみとめているのです。
瑕疵をみつけたらどうする?
前述した判決は、建物についての責任をより広く認めていますが、建物の瑕疵については、本当にたくさんのトラブル事案があります。
何を瑕疵とするのか、責任を誰がどのくらいどうやって取るのかは、個別具体的に判断しなければ解決しない問題です。
しかし、ここでは、瑕疵をみつけたらどうすればいいのかを簡単に整理し説明します。トラブルシューティングがわかっていれば、いざという時、迅速に対応できるからです。
書面でのやりとりを徹底する
瑕疵のある住宅は、2種類に分けられます。「法令違反の建築」と、「契約違反の建築」です。契約違反の立証は、何を最終ゴールとしているのかについて当事者の合意がうまく表されていない契約書の場合等、立証する事が難しい場合があります。
「契約違反の建築」がより立証が難しいこと、「法令違反の建築」・「契約違反の建築」どちらの場合でも、業者とのやり取りは書面で残すことを心がけておいてください。
瑕疵担保責任を確認しておく
瑕疵担保責任とは、売買の目的物に瑕疵があり、取引上通常の注意をしても気づかないものであった場合に、売り主が貸し主に対して負う責任のことをいいます。
隠れた瑕疵が見つかった場合、買い主は、瑕疵がある事を知った時から1年以内に売り主にたいして損害賠償請求をすることができます。買い主は、契約解除もすることができる上に、売り主に過失があることを要件とされていません。
しかし、これでは、売り主は、長い間かくれた瑕疵の責任を追求される恐れから解放されることはありません。
自分が売り主だと思って考えてみると、売買契約後ながい期間が経過しているのに物件の瑕疵を買い主が気づいてから1年以内だからといって損害賠償請求をされるとすれば、売り主の立場がとても不安定だと感じるとおもいます。
そこで、一般的な売買契約では、売り主の瑕疵担保責任を限定的にしています。
新築の場合
新築物件の場合は、「住宅の品質確保の促進等に関する法律」施行後、10年の瑕疵担保期間が義務かされています。つまり、契約でいくら瑕疵担保責任を限定する項目を設けても買い主や注文主に不利になる特約は無効と判断されます。
保証期間を長くすることは、可能ですが、経年劣化による不具合は、保証されませんし、通常の点検でわかる範囲の欠陥も保証されません。新築物件の場合は、住宅性能評価書などを利用して、売買時の状態を固定しておくとよいでしょう。
分譲マンションなどでは、2年以内に無償の補修を受け付けていることもあるので、ぜひ契約書の内容をじっくり読んでみてください。
中古物件の場合
中古物件では、契約によって売り主の瑕疵担保責任が免除されている場合が多くあります。契約によって瑕疵担保責任が免除されている場合、原則的には売り主に瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求をすることはできません。
ただし、売り主が瑕疵を知っていたのにあえて黙っていた場合等、悪質なケースでは、いくら契約に免除規定を設けていても瑕疵担保責任を負うことになります。
さらに、不当産業者の場合は、瑕疵担保の免責や期間の短縮といった条項自体が無効と判断され、民法の原則にしたがうケースもあります。通常のケースでは、契約で1〜2年としていることがほとんどです。契約で合意している場合、民法よりも契約が優先されます。
まとめ
一生に一度の大きな買い物で、瑕疵が見つかったら本当に嫌な思いをします。住宅についての瑕疵は、責任追及が難しいとされています。
それは、瑕疵をどう捉えるかが、売り主、買い主によって異なるからです。さらに、瑕疵がみつかった時に、施工主がもう無くなっていたり、損害を賠償してくれる相手がいないという事態も発生することがあります。
いざというとき、右往左往しないためにも、住宅の瑕疵のことを頭のすみにおいておいてください。もし、瑕疵が見つかったら、裁判の他に、指定住宅紛争処理機関で調停、斡旋、仲裁を受け付けていますのでその路のプロの力を借りましょう。