ハウスクリーニング代の負担は大家と借主どっち?

ハウスクリーニング代の負担は大家と借主どっち?

賃貸住宅を引き払う際にトラブルになることは少なくありません。そして、そのトラブルの原因の多くが敷金の返還に関するものです。敷金は本来であれば、部屋をきれいに使っていて、家賃の滞納などもなければそっくりそのまま返ってくるのが筋なのですが、なかなかその筋通りにはいきません。

過去に退去の際に納得できないながらも渋々敷金からかなりの額をクリーニング代として引かれてしまって今でも悔しいという人は少なくないでしょうね。

退去費用の相場

退去費用の相場を一口で言うのは、とても難しいものがあります。結局敷金がいくら返ってくるかによるのですが、これが千差万別なのです。それは建物の状態と、大家さん、不動産屋の人間性によると言っていいでしょう。

民法が変わりました

「契約や金銭の支払いに関するルールを定めた民法の規定(債権法)を見直す改正法案」が2017年に衆参本会議を通過し、可決されました。これにより、民法の大きな見直しがされることになったのですが、実にこれがなんと120年ぶりです。

社会状況がまったく違う明治時代に作られた法律がまだ現役だったということがまず驚きですが、これは部屋を借りる側からすれば、敷金の全額返還に向けてのグッドニュースです。これにより敷金の返還請求やクリーニング代の負担は従来より大きく変わるはずです。まずは法律をおさらいしてみましょう。

本来どちらが払うもの?

ハウスクリーニングの費用を借り主が払うのか大家さんが払うのかは、過去に何度も裁判で争われています。その際の判決を見てみると、基本的にハウスクリーニングの費用は大家さんが負担するものであるというのが判例です。

その理由は、ハウスクリーニング代は月々の家賃の中に含まれているという考え方からです。ただし、だからといって汚し放題に汚してそのまま出ていくということはできません。なぜなら、あくまでもこれらは通常の使用の範囲内での汚れに限られているからです。

たとえば、喫煙者が壁にヤニ汚れをつけてしまったり、不潔にしていてカビだらけにしたり、頑固にこびりついたプロの手でも取るのに難儀するような油汚れをつけてしまったりしたら、その分は借主の負担になります。

とは言え、なかなか「ここからここまでが通常消耗でこっちは借主の責任」というように双方が納得する線引きは難しいですよね。ここにトラブルの種があるわけです。

相場5万円説って本当?

よく、ネットなどを調べていると退去費用は5万円が相場と書いてあるページを目にしますが、これはそのまま額面通りに受け取らないほうがいいと思います。。基本的にどの程度のクリーニング代を敷金から引くかは大家さんの人間性によるので、「だいたい5万円くらいなら文句も言われないだろう」という非常にアバウトな計算によるものかもしれません。

家賃が5万円の部屋なら、敷金2か月分として、半分返ってきたらまあいいや、と納得してしまう人が多いと思いますが、忘れないでください。敷金は本来全額返ってくるべきお金です。「折半で」という考え方がそもそもおかしいです。

ハウスクリーニング特約に注意

裁判所の判例ではっきりとハウスクリーニング費用は大家さんもちと出ているのに、当たり前のように退去時にクリーニング費用が敷金から引かれていることは多いと思います。そのカギは、契約書にあります。

ハウスクリーニング特約って何?

部屋を借りる際には当たり前ですが借り手と貸し手が同席した上で契約を結びます。ほとんどの場合契約書の作成から署名捺印まで、不動産業者が間に入っているはずです。

その際、重要事項説明をすることが法律で義務付けられています。契約書にびっしりと細かい文字で書かれている内容は一読しただけでは素人には理解できませんよね。そこで、契約書の中で特に重要な部分は口頭で説明します。

本来はここで「あれ?おかしいな」と思ったら質問をしたり書き直しを求めたりできるのですが、相手はプロですから立て板に水でどんどん言われると、ついその勢いに負けて言われるがままにサインしてしまいがちです。その中に含まれている可能性があるのが「ハウスクリーニング特約」です。

よくあるパターン

よくあるハウスクリーニング特約は、本来は大家さん側が負担すべきものですが、「クリーニング費用は賃借人の負担とする」という旨の特約です。賃借人とはつまり借り手ですね。これが書いてあると、ハウスクリーニング費用は借り手が払うことに納得してサインをしたということになります。

また、中には最初から「ハウスクリーニング費用として〇〇万円を賃借人が負担する」と具体的な金額が書かれている場合があります。これなどは、たとえば急に出ていかなければいけなくなった場合でもその額を支払わなければいけないので、理不尽な感じがしますよね。

特約があったらあきらめなければいけないのか

自分が最初にちゃんと契約書を見ずにサインしてしまったのだからしょうがないと思うかもしれません。実際に裁判でもハウスクリーニング特約に関しては、争ってもあまり勝ち目はないようです。ただし、あまりにも理不尽だったり高額だったりして納得できない場合は、いくつか打つ手があります。

自力で敷金を取り戻してみよう

敷金返還裁判は少額裁判制度が始まってから一気に増えました。費用も少額で弁護士もいらないので、ちょっとしたやる気があれば誰でもできます。しかし、裁判というとどうしても腰が引けてしまうという人も多いですよね。そんな場合はまず粘り強く交渉してみましょう。

ハウスクリーニング特約が無効になることも

たとえ契約書に「ハウスクリーニング代金は支払う」と書いてあったとしても、それが原状回復として認められる範囲を逸脱しているとか、元々どこまで支払わなければいけないのかはっきりしていないと裁判所が判断した場合には、この特約は「成立していない」つまり「無効」という判例が出ることもあります。

ただ、ここまでこじれるのも面倒でしょうから、まずは訴訟も辞さず、一歩も引かないという姿勢だけはポーズで崩さないながら、いくつかの手を打って行きましょう。

詳細な明細書をもらう

この段階でどんぶり勘定で「だいたい5万円」などと請求しているようないい加減なところは折れてくれるかもしれません。

内容証明を送る

ここまでクリーニングが必要なほど汚していないから、これはこっちにはらう必要がないのではないかという内容を内容証明付き郵便で大家さんに送ります。だいたい、これをもらった段階で「この人は本気なんだな」と思うでしょうし、万一訴訟までいってしまった場合もこの内容証明を使うことになるので、丁寧に書いておきましょう。

プロの力を頼る

世の中には公正な立場から敷金の適切な返還額を鑑定してくれる敷金鑑定士がいます。こういったプロの人に鑑定してもらうように提案するのもいいでしょう。その際の費用に関してもどちらが払うのかは決めておきましょう。

民法改正があったばかりなので、原則的には敷金が全額返還になったといっても、その通りにされるかどうかは非常に不透明です。

でも、逆に言えば今ここで一人一人が頑張って多くの敷金が当たり前のように返還されるようになれば、それが日本の慣習になっていくので、後の人のためにもなるのですから、ハウスクリーニング費用は払わなければいけないものと払わなくていいものをしっかり勉強してから交渉に臨みましょう。


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