大切な家財を預けることになる引っ越しは、誠実で信用のおける業者にお願いしたいものです。ところが、世間では安さを追求するあまり、悪徳引っ越し業者に引っかかってしまい、泣き寝入りするケースもあります。そんな悔しい思いをしないためにも、悪徳業者にだまされないための対策と、違法業者の見抜き方を紹介します。
引っ越しトラブルの相談の事例では
まずは、実際に国民生活センターに寄せられた相談の事例を紹介します。同じような内容で毎年のように寄せられる「もはや定番」と思われるものや、「まさかこんなことが…」と驚くものもあります。
事例1. 見積もり当時にはなかった追加請求
事前に見積もり書を出しているにも関わらず、引っ越し当日に理由をつけて現金を請求する様々なパターンがあります。
例えば、トラックに荷物がすべて収まらず、客が自分で運ぶか、トラックを往復させるか、別便の応援トラックを要請するか、その場で選択を迫ることがあります。これは、ちゃんとした訪問見積もりを行っていない場合に起こりがちです。
インターネットで家財の量を自己申告して見積もりを出してもらうサービスは一見便利ですが、家具のサイズがわからなかったり、壊れやすく積み重ねられないものが多くあったりした場合には、必ずしもトラックサイズが適切なものにならないことがあります。そうなると、積み残しが出てしまいます。
また、訪問見積もりを依頼しても、営業マンが見積もりミスをすることがあります。他社との競合で見積もり金額を安くするために、他の業者よりもトラックのサイズを小さくした場合に起こるミスです。このケースは、複数業者から相見積もりを取り、トラックサイズを比較することで避けられます。
他にも、「依頼した引っ越しプランでは、その中にエアコンの移設が含まれているという話だったのに、後から追加で請求された」ということもあります。これらの事態を避けるためには、プランの内容と追加費用の有無について事前にはっきりさせておき、見積もり書に一筆書いてもらうと良いでしょう。
事例2. 食器の破損や建物の傷が補償対象にならないと言われた
食器や家具が破損した、床や壁に傷がついた、設備を壊したというのは、やむを得ないにしても、業者の対応に不満を抱く人は多いです。
「破損しても補償対象にならない」と言われたり、「元から壊れていた」「前からあった傷」だと主張されたり、破損の事実は認めても、のらりくらりと対処を引き延ばされ一向に解決する気持ちが見られなかったりすることもあります。また、補償はしても、ありえない低い金額だった、ということも実際にあるようです。
業者やプランなどによって、補償の内容や上限金額が異なる場合があります。依頼者が梱包した状態が悪いと補償対象にならない場合もあるため、壊れて困るものは自分で運ぶか、業者に梱包まで任せるか、「割れ物危険」などと大きく目立つように記すようにしましょう。
作業前には、特に大切なダンボールの中身を見てもらい、このような梱包で構わないかどうか、そして中身が壊れていないことを確かめてもらいましょう。細心の注意を払って運んでほしいという牽制の意味があり、荷物の破損を抑止する効果もあります。
事例3. 業者の対応がすべてにおいていい加減で、呆れた
「水抜きの確認をせずに冷蔵庫を移動させて、カーペットが濡れたけれど、なんの対応もなかった」、「洗濯機をそのまま置いただけで、取り付けてくれない」、「ホースの取り付け位置が間違っていて、修理が必要になった」、などの事例もあります。
きちんと教育と経験を積んだプロなら、トラブルの際に適切な対応ができるはずです。しかし、トラブルが生じてもうまく対応してくれない業者もいます。
事例4. 荷物を運んだトラックが新居に到着しない、連絡も取れない
荷物の紛失や盗難というのも、昔から引っ越しトラブルの相談としてよくみられます。しかしなかには、驚くような事例もあります。
引っ越し業者に旧居から荷物を運び出してもらい、新居で待っているのに、待てど暮らせど引っ越しトラックが到着せず、電話連絡も取れない、というものです。これは、預けた荷物の中から一個や二個の紛失や盗難があったというレベルではありません。
明らかな窃盗の犯罪で、警察に被害届を出すべき事件です。一刻も早くあらゆる証拠や手がかりを届け出て、第二第三の被害者を出さないために捕まえてもらい、盗品を取り戻さなければなりません。引っ越し料金をだまし取られるのに加え、新たに家財を買いそろえなければならないので大損害です。
違法業者の簡単な見分け方
引っ越しの繁忙期である3月と4月は、全国で引っ越しの需要があることから、引っ越し料金が通常の2倍や3倍に高騰します。それに便乗して、普段は引っ越し業を行っていない人たちが、正式な届け出もせず、国土交通大臣の許可なく引っ越し業を偽って、違法に金品を受け取ろうとします。
また、繁忙期でなくても、自家用にトラックを所有する人たちが引っ越しを請け負って、不正に利益を上げることもあります。正式な引っ越し業者なら、国土交通省が定めた標準引越運送約款に基づき、消費者が一方的に不利益を被らないためのルールを守り、不当な料金を請求することもなく、誠実な営業活動をしています。
しかし、違法に引っ越しを請け負う人たちは、ルールなどお構いなしで、万一の際の補償もしてくれません。そんな違法業者に引っかからないための対策を紹介します。
正式な業者のトラックのナンバープレートの色は
緑ナンバーは営業車、というのを聞いたことがあるでしょうか?会社で所有するすべての車両が緑ナンバーというわけではありません。人や物を運んで、運賃を受け取る営業車が緑ナンバーになります。
つまり、路線バスや観光バス、タクシー、宅配便、貨物運送、引っ越しなどに使われる車両が営業車となり、緑色のナンバープレートに白文字が使われています。軽貨物運送なら、黒色のナンバープレートに黄色の文字になっています。
つまり、トラックのナンバープレートの色を見れば、営業車かそうでないかが判断できます。また、訳あり引っ越しを専門とする業者はその限りではありませんが、トラックは走ることにより広く大勢の人の目に触れるように、会社名や使用するキャラクターなどでトラックを目立たせて宣伝しようとします。
それらがどこを探しても書かれていなければ、用心した方が良いでしょう。ただし、一点気をつけたいのは、引っ越し繁忙期の3月中旬から4月中旬までは、ナンバープレートで判断することができないことがある、という点です。
繁忙期はその名の通り、引っ越し業者のトラックをすべて使っても引っ越しが追いつかないことがあるため、3月15日から4月15日までの14日間に限り、レンタカーでの引っ越しを限定的かつ特例的に認めているからです。
この場合、ナンバープレートは緑色ではなく、レンタカーである「わ」か「れ」の表示があります。その際は、受理印付きの届出証を、自動車の外から見えやすいように掲示するよう義務付けられています。つまり、繁忙期の引っ越しにおいては、緑ナンバー以外のトラックで届出証が見えないものは、違法業者の可能性が高いと言えます。
ただし、昨今の引っ越し業界の実情は、トラックの不足よりも新規ドライバーの確保の方がより困難であるため、レンタカーを利用することはわずかと言えるでしょう。
見積もり書に事業許可番号の記載はあるか
引っ越しトラックが来る前に見抜く方法としては、引っ越し業者の見積もり書にヒントがあります。引っ越しの事業許可申請をして監督官庁から正式な許可を受けた事業者は、使用する見積もり書に、会社の名称、事業許可番号、住所、電話番号、見積もり担当者の氏名及び問い合わせ窓口の電話番号を必ず記載することになっています。
そこに事業許可の番号が見られないときは、違法業者とみなして、いくら安い引っ越し料金を提示されても契約しないことをおすすめします。
引っ越し運送約款の説明はあったか
別刷りの書類か、見積もり書の裏に、小さい文字で印刷された運送約款の説明はありましたか?見積もりの際には、荷物の受け取りや引き渡し、事故の際の措置、解約手数料、損害賠償の額などのルールを記載した、運送約款を提示することになっています。
その条文に目を通して理解しておくことが、トラブルを防ぐことにつながります。運送約款を提示しないということは、業者にとって不利なことを隠したいということにすぎません。
※参考:国土交通省「標準引越運送約款」
正式な業者でも、こんな悪質な手口には気をつけよう
違法業者でなく正式に許可を受けた引っ越し業者でも、対応によっては時に悪質に感じる場合があり、国民生活センターなどに相談されるものもあります。
極端な高値の提示
見積もり書で一度は極端な高値を提示しておきながら、客の値引き要求に応じて当初の金額からかなりの割引をしてみせる業者もあります。割引率は大きいかもしれませんが、そもそも最初に提示する金額が高いため、それだけで善良な業者と判断するのは早計です。
見積もり書の明細がわからない
見積もり書の書式がいい加減で、明細の内訳が判然とせず、合計額だけ記載されているような業者は気をつけましょう。運送約款では、運賃などの内容ごとに区分してわかりやすく記載することが決められています。
内金や手付金を請求する
運送約款では、下見に要した費用以外の内金や手付金を請求しないことになっています。
これらを請求するような業者の場合、他に良い業者が見つかったときは、先に支払った料金は返金してもらえないでしょう。
運送約款の存在を隠す
運送約款を提示してくれない業者は、都合の悪いことを隠したい、と自ら証明しているようなものです。たとえ見積もり書に事業許可番号が記載されていても、このような業者とは、早めに縁を切った方が良いでしょう。
契約前にダンボールを置いていく
引っ越し業者を一社に絞って正式に依頼する前は、どの業者からもダンボールは受け取らないようにしましょう。「荷造りは早い方が良いですよ、無料だからお使いください」などと言葉巧みにダンボールを無理やり置いていこうとしても、持ち帰ってもらってください。
ダンボールが無料になるのは、引っ越しをその業者にお願いした場合のみです。他の業者に決まった場合は、ダンボールを有料で買い取るか、有料で返送するか、ということになります。国民生活センターでもよくある相談として事例があがっています。
※参考:独立行政法人「国民生活センター」
まとめ
引っ越しの際には、必ず複数の業者に訪問見積もりを依頼し、見積もり書を作成してもらいましょう。様々な業者と接することにより、あやしい業者を見抜く目も養われます。また、見積もり書をもらえば、様々なヒントに気づきます。見積もり額が適正なものか、トラックサイズや作業人数は適正か、などもわかります。
また、正式な業者でも、営業マンの熱心さが度を超し、他社の悪口を並べ立てたり、「今決めてもらえばさらに安くなります」と即決を迫ったりするなど、悪質と感じられることもあります。
見積もり担当者と引っ越し当日に来る作業スタッフは別だから、という見方もありますが、最初に接する営業マンの印象が悪ければ、総じて社風も作業の質も窺い知れると言えるでしょう。