耐震リフォームは、耐震設計の知識と施工技術が必要な工事です。そのため、業者選びが難しいリフォームです。耐震リフォームを理解することで、良い業者に工事を依頼でき、耐震性能が高い良いリフォーム工事になります。耐震リフォームの方法や費用・注意点を知っておきましょう。
方法と費用相場
耐震リフォームの方法や費用相場は、リフォームする家の現在の状況や家の設計内容により変わります。どのような耐震設計するのか、どのような工事をするのか、どのぐらいの費用がかかるのか、一般的な方法と費用を解説します。
耐震リフォーム工事の概要
耐震リフォームは、今の家の耐震性能を確認し、必要な補強を行う工事です。基礎や床・柱・壁・屋根が主に補強をおこなう部位となります。補強する部分と規模により費用が大きく変わります。工事は、図面・書類の確認や現地調査、耐震設計を経て行われます。
図面と建築確認申請書の確認
家を建てる時には設計図面と建築確認申請書が必要です。「設計図面」には、どこに柱があり、どのような耐震設計になっているかなどが書かれています。「建築確認申請書」には、いつ申請し着工しているか書かれていて、建築年度がわかります。
現地調査や耐震設計を行う時にこれらの資料があると、より正確な調査・設計を行うことできます。耐震リフォームを依頼する時には、設計図面と建築確認申請書を用意しておきましょう。
現地調査
現地調査は、現状が設計図面通りになっているか、建物に不具合はないか、地盤に問題はないか、主にこの3つを調査します。
設計図面と現状
長く暮らしているとリフォームしたり、増築したりすることがあります。そのため、新築した時の設計図面と現状の間取りが違う場合が多々あります。現状の間取りは新築当時のままなのか、どのように変更されているのか現地調査で確認します。リフォームや増築工事をしている場合は、事前に伝えておくと調査は早く、正確にできます。
建物の不具合
現地調査では、建物の不具合の有無や状態も確認します。基礎・外壁のひび割れ、床の傾き、床下・屋根裏のいたみなどです。また、過去の雨漏りや白蟻の発生なども知っておきたい項目です。床下や屋根裏の確認に必要な点検口の位置を確認しておきましょう。
地盤の確認
現地調査では、地盤の確認も行います。敷地全体に極端に下がっている箇所はないか、ブロック塀は傾いていないかなど状態の確認も行います。地盤調査を行うケースもあります。
耐震リフォームには、これらの現地調査はかかせません。丁寧な現地調査は良い耐震リフォームに必要な事項です。
設計者による耐震設計計画
設計図面と建築確認申請書・現地調査資料を基に、設計者は耐震設計を行います。
まず、現況の状態でどのぐらいの耐震性能があるか確認(耐震診断)を行います。その後、耐震リフォーム工事の設計計画を行います。耐震設計には、目安となる総合評点という数値があります。それを基準にお客様にどのような耐震性能になるか説明をします。
補助金の確認と工事の説明
耐震リフォームを行うと補助金がもらえる市町村があります。補助金が受けられる工事内容には細かな規定があります。リフォーム工事の内容説明や見積もり説明の時には、補助金の有無と受けられる工事かどうか確認しておきましょう。
耐震リフォームの工事方法
耐震リフォームは、耐力壁・屋根・床下・基礎・地盤を必要に応じて工事します。
耐力壁
耐力壁とは、地震により水平に加わる力に抵抗する壁のことです。耐力壁は、量とバランスが重要です。耐震リフォームでは、足りない耐力壁の量を増やす・バランスの悪い耐力壁の位置をバランス良くする工事を行います。
今まで耐力壁でなかった壁を耐力壁にしたり、窓を小さくして耐力壁を増やしたり、構造用合板を貼って耐力壁の強さを大きくして量を増やします。また、現状の耐力壁の状態も確認します。耐力壁に使用する金物を交換して、良好な状態にします。
屋根
屋根は軽い方が地震に対して有利です。(軽い屋根の方が地震の影響を受けにくい)そのため、瓦屋根を軽い屋根に葺きかえる耐震リフォームを行うケースがあります。
特に築年数の古い住宅の屋根瓦は、砂や漆喰を使った昔ながらの施工をしている場合があります。この場合、砂の分さらに重い屋根になっていますので、屋根を軽くする工事はとても有効な工事となります。
床下
床下は、白蟻被害や湿気により傷んでいないか確認します。白蟻被害がある場合、耐震に重要な柱や耐力壁が傷んでいる場合があります。傷んでいるところは取り替えて補強を行います。また、床を金物で補強して、地震の水平力に対する耐震性を高める工事を行うケースもあります。
基礎
現在の耐震基準では、基礎は鉄筋コンクリート造で作る仕様になっています。基礎から上の部分を耐震補強しても基礎がしっかりしていなくては意味がありません。そのため、無筋の基礎や鉄筋が足りない基礎、基礎にひび割れがある基礎を補強します。
補強方法は、内側に基礎を作ったり、ベタ基礎を配置したり、ひび割れを補修します。家の状況にあった基礎補強を行います。又、基礎と土台、土台と柱の緊結方法の確認も行い、金物を使って基礎~柱まで必要な補強を行います。
地盤
地盤調査で補強の必要性があると判断された場合、地盤補強を行います。耐震リフォームの地盤補強は、固化材をもちいた補強や強い地盤まで柱を作って支える改良工事を行います。
耐震リフォーム工事の費用相場
耐震リフォームの工事費用は、工事規模が大きくなるほど高額になる傾向があります。個別の費用相場と工事全体の費用相場を見てみましょう。
耐震リフォーム工事 部位別費用相場
耐力壁による壁補強(筋違設置及び構造用合板を貼る)
- 室内の間仕切り壁の場合 80,000~150,000円/ヶ所
- 押入・物入内の壁の場合 60,000~90,000円/ヶ所
- 外壁に接する壁の場合 100,000~200,000円/ヶ所
基礎の補修
- ひび割れのエポキシ樹脂注入補修 15,000~25,000円/ヶ所
- 既存の基礎に鉄筋コンクリート基礎打ち増し 30,000~35,000/m
耐震リフォーム工事 工事全体の費用相場
総合評点 リフォーム前0.44→リフォーム後1.04
- 耐力壁設置工事と屋根の葺き替え工事 約1,400,000円(設計料別)
総合評点 リフォーム前0.50→リフォーム後1.26
- 耐力壁設置工事 約1,550,000円(設計料別)
総合評点 リフォーム前0.31→リフォーム後1.01
- 耐力壁設置工事 約800,000円(設計料別)
総合評点 リフォーム前0.69→リフォーム後1.35
- 耐力壁設置工事及び2階床補強工事 約1,400,000円(設計料別)
木造住宅の耐震リフォーム工事費用は、100~200万円かかります。耐震リフォームは大掛かりな工事となるため、一緒に水廻りのリフォームするケースが見られます。一緒にリフォームすると、効率よくリフォームできるため、家全体にかかるリフォーム費用を抑えることができます。
耐震リフォームする際の注意点
耐震リフォームは、業者の選び方や補助金の手続き・築年数の確認に注意する点があります。それぞれの注意点を解説します。
業者選びの注意点
耐震リフォームは、耐震設計を必要とする工事です。しかし、耐震設計の裏付けがない工事をすすめてくる業者がいます。このような業者を見分けるために、業者選びで注意するポイントをまとめました。
不十分な現地調査
業者の中には、現地調査を行わない、小屋裏や床下など確認しない業者がいます。耐震リフォームでは、現地調査は必須事項です。
今の状態からどのように変更して耐震性能をあげるか設計するため、又建物の不具合を直さないと耐震性能を確保できないため、現地調査は重要です。また、設計図面を確認しない・築年数を考慮しない業者も要注意です。
営業方法と契約
耐震リフォームの営業方法で、「不安」をあおって営業する手法があります。「今の状態では地震がきたら大変ですよ」「屋根が傾いていますよ」など、不安にさせて営業してきます。
訪問販売のリフォーム業者に多く見うけられる手法です。また、契約を急がせる業者も注意しましょう。キャンペーンや高額な値引きで契約を急がせる業者は売り上げのことしか考えていません。
耐震性能の説明がない
耐震リフォームを行う設計士は、耐震性能の説明をお客様に行なわなければなりません。耐震性能には、いろいろな段階があります。築年数によっては、求められる耐震性能を確保するのがむずかしいケースもあるのが実情です。
「この耐震リフォームをすれば、地震がきても大丈夫ですよ」という言葉だけでなく、どのような工事で耐震性能がどのようにアップするのか、説明をしてくれる設計士・工事会社を選びましょう。
補助金の説明がない
多くの市町村で耐震リフォームの補助金制度があります。100万円の補助金が受けられるケースもあります。補助金を受けて、より高い耐震性能のあるリフォームをすすめてくる工事会社は良い業者です。
しかし、補助金の申請が煩雑なため、補助金の説明をしない業者がいます。補助金のことを知らない、補助金の申請を嫌がる業者には注意しましょう。
補助金を利用する
各市町村では、耐震リフォームを行うと補助金を受けられる制度があります。補助金の額は各市町村によりちたいます。約30~100万円の補助金が受けられます。補助金を受けて、より高い耐震性能を得られるリフォーム工事にしましょう。
補助金の手続き・申請方法
補助金の手続きは、着工前に申請を行います。理由は、補助金額が耐震性能を表す総合評点や住んでいる人の年齢・家族構成・工事金額により変わるためです。着工前に申請し、許可を取らなくてはなりません。
申請手続きには、設計資料が必要となるため、工事会社や設計者が代理で申請手続きをしてくれます。また、工事中の検査や工事後の工事資料・写真の提出を義務付けている市町村がほとんどです。
補助金の申請~工事着工~補助金入金までの一般的な流れは、下記の様になります。
- 工事請負契約を工事会社とかわす
- 市(市町村)に補助金の申請をする
- 補助金申請の許可がおりる
- 工事着工
- 工事中に検査及び工事写真撮影
- 工事完了
- 市(市町村)に工事完了届を提出
- 工事完了OK
- 補助金入金
築年数を確認する
耐震リフォームは、築年数により工事規模・方法が変わります。それは、建築基準法の耐震基準が変わっているからです。築年数による耐震基準の違いを説明します。
1981年(昭和56年)6月 新耐震基準
建築基準法の耐震基準は、1981年6月の改正で大きく変更され基準が厳しくなりました。この時の基準を「新耐震基準」と言います。新耐震基準は、震度5の地震では損傷しない、震度6.7の地震では倒壊しないという基準です。
耐震リフォームでは、この新耐震基準をクリアしなければなりません。そのため、築年数の確認は重要です。
築年数は建築確認申請書で確認します。新耐震基準で家が建てられているかどうかは、いつ建築確認申請の許可を受けたかで変わります。1981年5月31日以前に許可がおりている住宅は、旧耐震基準。1981年6月1日以降に許可がおりている住宅は、新耐震基準となります。
旧耐震基準で建てられている住宅は、耐震リフォームの規模が大きくなる傾向にあります。新耐震基準の住宅は、旧耐震よりも簡易なリフォーム工事で済むケースがほとんどです。
2000年(平成12年)・2005年(平成17年)の改正
建築基準法は1981年の大改正後には、阪神淡路大震災や新潟中越地震の後に改正されています。主には、基礎の仕様規定や耐力壁や柱などの接合部金物の規定、構造計算の方法の変更、また地盤調査がほぼ必須になるなどの細かな改正が行われています。耐震リフォームでは、これらの基準も考慮して耐震設計を行います。
建築基準法の改正のたびに、耐震用金物の開発が行われ、耐震工事の方法も進化しています。そのため、現在では、施工性の良い金物・性能の高い金物・施工方法がいろいろあります。これらの知識が豊富な設計士や施工会社に耐震リフォーム工事を依頼できると質の高い耐震リフォーム工事が可能になります。
地震は、いつどこで起こるかわかりません。しかし、事前に備えができます。家の築年数が経っている場合は、一度耐震診断を行い、耐震リフォームを検討しましょう。市町村からの補助金が受けられれば、思っていたよりリーズナブルな金額でリフォームできるかもしれません。家族を守るためにも耐震リフォームは大事です。
※参考資料:静岡県 木造住宅 耐震補強工事費用