政府は国家戦略特区の対象分野として「歴史的建造物」の活用を挙げています。古民家を、まちの景観を形成する観光資源と位置づけたり、外国人旅行者の宿泊・体験施設として活用するなど、「地域創生」のための規制改革が推進されています。
2007年に世界遺産に登録された島根県の「石見(いわみ)銀山」や、おなじみの京都市の「京町屋」の街並みのブランド化に伴い、古民家を再生してカフェやレストランとして活用する「ふるカフェ」ブームが全国に広がっています。
古民家カフェは成功するのか?
厚労省の調査によると、喫茶店の市場規模は2007年の時点で1兆571億円で、1985年と比べると22年間で37.7%の縮小。一方、同じ期間での店舗数の推移を見ると、163,797店から291,587店と78%の増加となっています。(2011年、生活衛生業実態調査)
実は、店舗数が増加している陰で、事業所数は半減しています。このことから、少数の事業者による低価格チェーンや、喫茶機能を持つレストランチェーンの出店攻勢に押され、個人経営の喫茶店が激減している実態がうかがえます。
このように個人の喫茶店経営が難しくなるなかで、古民家カフェの経営に乗り出し継続させるためには、古民家の持つ特性を最大限に活かしていく必要があります。
古民家カフェが人気の理由
「古民家」には明確な定義はないようです。
一般社団法人 全国古民家再生協会では、「昭和25年の建築基準法の制定時に既に建てられていた『伝統的建造物の住宅』が古民家である」と定義しています。
古民家カフェを訪れる人の誰もが感じるのが、不意に異世界へタイムスリップしたようなうれしい驚きです。
永く風雪に耐えた茅(かや)葺きの屋根のたたずまい、入口をくぐると囲炉裏の煙に燻された黒光りする太い柱や梁(はり)、その空間は非日常的でありながらも、強く郷愁をそそられます。
古民家カフェは、「カフェというよりもテーマパーク」といえるでしょう。
店舗の内外装、店内の設(しつら)え、食器、地場の食材を使った個性的なメニュー、これらのすべてがお客様をもてなす魅力となり、人々を誘うのです。
お店をオープンさせるまでの費用相場
古民家カフェ開業に必要な資金は以下の通りです。
- すでに古民家を所有しているのでなければ、古民家購入・移築再生・賃貸等に必要な資金
- 店舗として使用するための内外装・厨房機器・洗面やトイレなどの衛生設備・看板等の改築資金
- テーブルや椅子、調度品・食器など設えに必要な資金
- 食材や消耗品の購入、水道光熱費、スタッフの給与などに充てる運転資金
建物の老朽度や、駐車場整備などの関連設備の状況により、費用は一概に言えませんが、②から④までの合計で、おおよそ500~1000万円の資金が必要といわれています。
上述の厚労省の生活衛生業実態調査では、一般の喫茶店の客単価は734円。この客単価をもとに、20坪(66㎡)で15人収容可能な古民家カフェで、客回転率を2として一日30人のお客様が飲食した場合で試算してみましょう。
734(円)×30(人)=22,020(円) ・・・ 1日の売上
週に1日は定休日、月26日営業とすると、
22,020(円)×26(日)=572,520(円) ・・・ 1か月の売上
ここから仕入れ原価差し引いて粗利を求めます。
飲食店の食材の仕入れ原価率は通常30%とされているので、
572,520(円)×0.3=171,756(円) ・・・ 1か月の食材の仕入れ原価
つまり、
572,520(円)-171,756(円)=400,764(円) ・・・ これが月の売上総利益(粗利)
この金額から、販売費及び一般管理費を差し引いたものが営業利益です。
水道光熱費は業務用冷凍庫や製氷機がフル稼働で月4万円、スタッフ1名の時給を900円で8時間、宣伝費はないものと仮定すると、
40,000(円)+900(円)×8(時間)×26(日)=227,200(円) ・・・ 販売費及び一般管理費
つまり、
400,764(円)-227,200(円)=173,564(円) ・・・ 1か月の営業利益
借入金や賃料等の固定支出があれば、ここから月々の支払いが発生するため、厳しい経営を強いられることになりそうです。コーヒー豆や自家製の菓子類、民芸品の販売などで客単価を上げたり、集客に工夫する必要があります。
ちなみに客単価を1,000円、客回転率を3とした場合、1か月の営業利益は、591,800円となります。
オープンするまで流れと期間
すでに古民家を所有しており、自己資金で開業するなら、リフォームが完了し、保健所の営業許可が下りれば開業できます。そうでなければ、物件探しや資金の調達に、ある程度の期間が必要となります。
「古民家を1年以上かけて自力で改装し開業した」とか、「気に入った椅子やテーブル・調度品を何年もかけて集めた」など、オーナーのこだわりがダイレクトにお店の魅力をつくり出すので、拙速に開業を急ぐのは考えものです。
1. 物件と立地の調査
古民家カフェをオープンするには、集客の見込める好立地に建つ、営業に適した物件を見つけることが第一です。
昨今の古民家ブームを受け、各地に古民家専門の不動産業者があり、これを利用することができます。
また、古民家を移築再生して開業したい向きには、「日本民家再生協会(JMRA)」が運営する『民家バンク』のウェブサイトを訪れてみるとよいでしょう。
「日本民家再生協会(JMRA)」では、古民家を譲りたいオーナーと、古民家を移築再生して利用したい希望者を結びつける活動をしています。希望者は、協会への情報料と解体・運搬の費用を負担するだけで、建物は原則無償で入手できます。
また協会では、古民家のリフォームになくてはならない古材・古道具・古民具のストックや販売事業も行っています。
NPO法人 日本民家再生協会(JMRA)
http://www.minka.or.jp/index.html
古民家リフォーム全般については、「全国不動産相談センター」への相談をおすすめします。古民家の活用だけでなく、不動産に関するあらゆる相談を、公平中立な立場で、無償で応じています。
全国不動産相談センター
http://www.fudosan-soudan.biz/
2. 古民家の購入・修繕の資金の調達
古民家事業をはじめたい、でも資金が足りない。そんな時、通常の事業資金融資の窓口を訪れる前に、検討すべき選択肢があります。
第一に、自治体が、古民家の商業利用に特化した補助金・助成金を設けている場合があります。第二に、地方銀行の中には、千葉銀行のように、地域経済の振興をはかる目的で、『古民家事業支援融資』を行っているケースがあるからです。
これらの融資では、返済に一定の据え置き期間を設けており、有利な金利や返済条件で借り入れが可能です。
補助金・助成金・融資の利用申請には事業計画書の提出を求められることがあります。
すべて自己資金で賄うとしても、事業計画書の作成をおすすめします。なぜなら、古民家ブームの追い風があるとはいえ、カフェは生き残りが難しい分野です。しっかりとした経営コンセプトと、計数管理が必須です。
事業計画書作成をサポートするフリーソフトがネット上に数多くあり、ダウンロードが可能です。
ここでは、飲食店の開業前のコンセプトワークから、事業計画書作成までのプロセスをすべて開示している「未来食堂」のホームページを紹介しておきますので、参考にして下さい。
「未来食堂」の事業計画書
https://docs.google.com/document/d/1lRpDb-LxH2uFSHuQT3nj58P_KtjKT6YXpVvK85SPFmY/edit
3. 古民家の改築と開業
古民家の改築は、特殊な建築技能分野です。
「ふるカフェ」ブームを受けて、一般のビルダーやハウスメーカーが古民家リフォームへの参入の動きを見せていますが、充分なノウハウがあるかは疑問です。
悪質な業者が施主の無知につけこむ被害報告もあります。
上で紹介した日本民家再生協会(JMRA)や全国不動産相談センターでは、優良な民家再生専門家の紹介活動も行っているため、利用するとよいでしょう。
人気の関東の古民家カフェ一覧
daigo cafe
茨城県久慈郡大子町大子688
1916(大正5)年に建てられた築100年の呉服商の町屋(まちや)を改装したカフェ。「町屋」は店舗併用住宅のことで、住宅専用の「仕舞屋(しもたや)」と区別されます。
城藤茶店(しろふじちゃのみせ)
茨城県土浦市中央2-15-8
1936(昭和11)年竣工の海軍軍人の書院造りの住居を改装したカフェ。地元の食材を用いたこだわりのメニュー。落語会や染色ワークショップなど、さまざまなイベント活動を通じて、地域の活性化をはかっています。
展示・茶房 宮崎邸
千葉県印西市船尾483
築230年の農家を再生した古民家カフェ。広大な庭園。陶展やコンサートなど多彩なイベントを開催しています。
里山カフェChiki
栃木県鹿沼市下沢554
築110年の古民家カフェ。地場の野菜を使ったヘルシーなメニューや手作りのスイーツが人気。
百福
埼玉県さいたま市緑区芝原1-13-2
漬物問屋だった家屋を移築して開業した物件。アンティーク雑貨のギャラリーがあります。
まとめ
多くの古民家カフェのオーナーたちは、地域の結びつきを基盤に、カフェを交流と発信の場として位置付けています。また、取り壊されようとしている老朽化した建築物に、伝統的な価値を見出し、再生利用の可能性をひろげようとしています。
彼らは、伝統という過去から未来へのつながり、地域という人と物のつながりの求心的な住人です。
今日、国境を廃して人・物・資本を自由に往来させ、世界を均質化しようとすると同時に、人々のつながりが薄らぎ孤立化していく大きな流れのなかで、地域と伝統にこだわる「ふるカフェ」ブームは、象徴的で示唆的な現象ではないでしょうか。
古民家カフェの本当の魅力は、「志の高さ」かもしれません。