不動産を売却する際に売却価格が取得費を下回って譲渡損が発生することがあります。
5年を超えて居住するマイホームを売却する際に、発生した譲渡損失は税制上の優遇措置が適用でき、繰越控除を受けることによって損失を取り返すことができる場合があります。
譲渡損失を心配して悩んでいる人が参考になるように、今回は制度の内容について分かりやすく解説します。
買換えする場合
住宅ローンを利用してマイホームの買い替えを行った際、特例により損益通算及び繰越控除を利用して譲渡によって生じた損失を取り返すことができる場合があります。
2017年12月31日までとなっていましたが、税制改正によって2019年12月31日まで延長されました。
今住んでいる家の条件
売却したマイホームに譲渡損失が生じ、その年の他の所得と損益通算してもなお赤字が生じる場合に適用されますが、以下のすべての条件を満たしていることが必要です。
所有期間
譲渡する年の1月1日時点における所有期間が、土地建物ともに5年を超えていること。
適用の期限
自分が住んでいる住宅の譲渡、もしくは住まなくなってから3年目の年の12月31日までの譲渡であること。
譲渡する相手
自分の配偶者(内縁関係を含む)、直系血族、生計を一にする親族など特殊な関係者でないこと。
買換え後の新居の条件
買換え後の新居に関しては以下の4つの条件をすべて満たすことが必要です。
- 譲渡する年の前年1月1日から翌年12月31日までの間に、国内で取得(購入または建築)をすること
- 取得した年の翌年12月31日までに居住を開始すること
- 床面積が50平方メートル以上であること
- 「返済期間10年以上の住宅ローン」(金融機関などからの住宅ローンや社内融資)を利用して取得すること。特例を受ける各年の年末に残債があること
その他の条件
- 繰越控除を受ける年の合計所得金額が3,000万円以下(給与所得のみの場合は年収が3,336万円以下)であること
- 譲渡した年の前年または前々年に、居住用財産の譲渡に関する他の課税特例の適用を受けていないこと。尚、500㎡以上の敷地を売却した場合は、500㎡までの損失しか対象となりません
実際の例
平成21年4月に7,000万円で購入したマンションを10年後の平成31年4月に3,000万円で売却し、4,000万円の住まいを購入。購入後のローン残高は2,000万円を想定して計算します。
平成31、32、33、34年の各年の数字は以下で計算します。
- 所得1,000万円
- 所得控除402万円
- 所得税768,500円
この時の譲渡費用110万円、減価償却費661.5万円とする。
譲渡損失の金額
3,000万円-(7,000万円-661.5万円)+110万円}=△3448.5万円
平成31年度分の所得税
1,000万円-3448.5万円=△2448.5万円
3448.5万円の譲渡損失があったため、平成31年度は所得が0円という扱いになり所得税768,500円が還付されます。損益通算により2448.5万円の譲渡損失が残ったため、翌年に繰り越しが認められます。
平成32年度分の所得税
1,000万円-2448.5万円=△1448.5万円
所得税768,500円が還付。1448.5万円は翌年に繰り越しが認められます。
平成33年度分の所得税
1,000万円-1448.5万円=△448.5万円
所得税768,500円が還付。448.5万円は翌年に繰り越しが認められます。
平成34年度分の所得税
この年でようやく繰り越し額より所得の方が多くなり、計算式は以下になります。
1,000万円-402万円-448.5万円=149.5万円
所得から所得控除分と前年から繰り越された譲渡損失が差し引かれた149.5万円が平成34年度の所得となります。所得税額は74,750円となり、693,750円が還付されます。
買換えしない場合
マイホームを売却した際に譲渡損失が発生した場合、一定の条件を満たせば買換えしなくても損益通算及び繰越控除の特例を受けることができます。この場合、損益通算および繰越控除の対象となるのは次のいずれか少ない方の金額です。
- 発生した譲渡損失額
- ローンの残債が売却金額を上回っている金額
今住んでいる家の条件
買換えをする場合における「今住んでいる家の条件」に記載された3条件に加え、以下の条件が加わります。
譲渡の契約締結日の前日時点において、譲渡する住宅にかかる「返済期間10年以上の住宅ローン」(金融機関などからの住宅ローンや社内融資)の残高があること
その他の条件
- 繰越控除を受ける年の合計所得金額が3,000万円以下であること
(給与所得のみの場合は年収が3,336万円以下) - 譲渡した年の前年または前々年に、居住用財産の譲渡に関する他の課税特例の適用を受けていないこと
- 500㎡以上の敷地を売却した場合は、500㎡までの損失しか対象とならない
実際の例
平成21年4月に7,000万円で購入したマンションを平成31年4月に3,000万円で売却し、4,000万円の住まいを購入。購入後のローン残高は4,500万円。
平成31、32年の各年の数字は以下で計算します。
- 所得1,000万円
- 所得控除402万円
- 所得税768,500円
この時の譲渡費用110万円、減価償却費661.5万円とする。
譲渡損失の金額
3,000万円-{(7,000万円-661.5万円)+110万円}=△3448.5万円
ローンの残債が売却金額を上回っている金額
3,000万円-4,500万円=△1,500万円
ローンの残債が売却金額を上回っている金額の方が少ないので、損益通算および繰越控除の対象となるのは1,500万円となります。
平成31年度分の所得税
1,000万円-1,500万円=△500万円
所得税768,500円が還付。500万円は翌年に繰り越しが認められます。
平成32年度分の所得税
繰り越し額より所得の方が多くなり、計算式は以下になります
1,000万円-402万円-500万円=98万円
所得から所得控除分と前年から繰り越された譲渡損失が差し引かれた98万円が平成32年度の所得となり、719,500円が還付されます。
まとめ
不動産売却で譲渡損失が発生した際に使える繰越控除について解説してきました。
不動産を売却する際は、損失が発生するケースが多いと思いますが、税の制度を上手に利用することで、損失額をおさえることができます。
繰越控除の特例は、今のところ2019年12月31日までと期間が決まっていますので、不動産を売るかどうか悩んでいる人は、早めの売却がおすすめです。